研究者インタビュー

その生ごみをバイオエネルギーに

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東北大学大学院 農学研究科 准教授
多田 千佳 先生

メタン生成菌のすごいはたらき

 バイオマスは、もとは生態学の学術用語で「生物体量」のことを意味します。しかし今では「再生可能で環境への影響が小さい有機物資源」という意味で広く使われています。たとえば、生ごみや家畜の排泄物の話題は、臭い、汚いと避けられがちです。ところがこうした「有機性廃棄物」は、実はバイオマスとしての利活用が特に期待されているのです。

 有機性廃棄物の処分には大きな手間やコストがかかり、水分も含むため、燃やす際に化石エネルギーも使用することになり、二酸化炭素などの温室効果ガスを増加させ、地球温暖化の原因にもなります。そこで環境保護の観点からも、生ごみを家畜の飼料や農業用肥料としてリサイクルする取り組みが進められているのです。

 そして、微生物の力を借りることで、生ごみから都市ガスの主成分のメタンのエネルギーを作れます。この有機性廃棄物から作るバイオマスエネルギーが、私の研究テーマの一つです。

 微生物を用いて生ごみからメタンを作る技術は、すでに実用化されています。発生ガスには多様な不純物が含まれるため、そのまま都市ガスとして使うことは難しいのですが、硫化水素などを除去した後に、燃やして熱源にすることや、タービンやエンジンを回して発電しているのです。

 メタンガスを生み出す微生物「メタン生成菌」は、沼や田の泥の中などにたくさんいます。また、牛の4つある胃のうちの第1胃にもいて、草の消化を助ける存在として牛と共存しています。メタン生成菌は嫌気性(けんきせい)の生物で、「気」である酸素があると活動が低下します。酸性やアルカリ性の環境も苦手とします。そのため、メタン菌を増やして活性化したい場合には、できるだけ酸素がない、中性に近い状態を作らなければなりません。この状態を保持できれば、あとは、あまり手をかけなくてもメタンガスを生成し続ける上、消化された有機物は、液体肥料として活用できます。

 一方でバイオメタンガスの生成・活用には、まだ多くの課題があります。たとえばメタン生成菌は、海藻のぬめりや生ごみの油分が苦手です。これらを効率よく分解・発酵させるための研究や開発に、私を含む多くの研究者が挑み続けています。

 バイオマス発電は有望な再生可能エネルギーで、メタン発酵の他にも、利用に適さない木を燃やすなどの方法があります。

 石油や天然ガスは地下から掘り出されて燃やすことで、地上の二酸化炭素を増やし、温暖化を進めています。一方、バイオマス発電で使用する原料の木や植物は、地上の二酸化炭素を光合成によって吸収して成長するため、地上の二酸化炭素が増えず、循環されることになり、化石燃料に比べてはるかに環境負荷が小さいのです。

 このように、酸素・炭素・窒素といった元素が、人間などの生き物の活動を含めて循環していることを考えると、バイオマスエネルギーの活用は、現在だけでなく未来の環境のためにも重要なのです。

小さなバイオガス装置の大きな可能性

 2011年の東日本大震災でガス・電気が止まった時、私はあらためて、家庭や地域といった小さな単位でエネルギーを自給する仕組みの必要性を認識しました。そして、比較的手に入りやすい資材で作れる、小さなメタンガス生成装置を開発することにしたのです。

 メタンガス生成やバイオマス発電の施設は、規模が大きくないと経済的に成立しません。しかし現状は、家庭やレストランなどの生ごみは毎日出ますが、回収されず、メタンに変換して利用されているケースは少ないです。そこで、個別に出る生ごみを無駄にしないために、牛のフンや田の泥の中にいるメタン生成菌を種菌(たねきん)として、自分でエネルギーに変換できるようにしたのです。小さなメタンガス生成装置はエネルギー源としてだけでなく、地域での資源循環や災害対策などの課題の解決にも役立つはずです。実用化や普及には時間がかかっても、ぜひ取り組みたいと考えました。

 震災翌年からは、地域イベントや小学校に出かけ、参加者と一緒にガスを作ってお湯を沸かし、お茶を飲むなどの出前授業の活動を始めました。2020年東京オリンピックの主会場である国立競技場の建て替えに伴って、1964年開催時の聖火台が宮城県石巻市に貸し出された2016年には、「バイオガスで火を灯しましょう」と申し出て実現しています。

 東京では教育関係者による「バイオガス出前授業の会」ができ、活動は関東に広がりました。宮城県では、鳴子温泉に「生ごみを持参するとお茶が飲めるカフェ」を開設したり、仙台で「炭の代わりにバイオガスを使う本格的なお茶会」を開いたり。2021年には、全国から集めた火でパラリンピックの聖火を点火する企画の宮城県でのイベントで、バイオガスが使われました。

 2020年、私は「生ごみからエネルギーをつくろう!」という、小学生向けの絵本を出しました。絵を描いてくれたのはスタジオジブリで活躍し、「借りぐらしのアリエッティ」などの監督を務めた米林宏昌さんです。実は米林さんは、高校の理数科クラスの同級生。忙しくて無理かな?と思いながらメールしたところ、快諾していただいた上に、小学生の女の子が出前授業をするアイデアまで出してくださいました。おかげでとても素敵な絵本に仕上がり、大きな反響をいただいています。新たに出前授業を依頼されることや、小学生から「家で実験したいので教えてください」とメールをもらい、うれしくてなりません。

バイオマスを入り口に環境問題に関心を

 微生物燃料電池も、私の主な研究テーマの一つです。蓄電池や充電池とは違い、燃料電池は水素と酸素の化学反応による発電装置です。小型でも効率が高く、排気ガスが出ないクリーンなエネルギーとして自動車などで実用化されています。一方、燃料の水素は電気分解などで生産するため、そのためのエネルギーが必要なことや、電子を受け取る電極に反応を高めるレアメタルが必要といった点が課題です。

 ところが泥の中の微生物を用いると、有機物を分解する際に、水素イオン(プロトン)と電子を放出するため、その仕組みを利用して燃料電池を作ることができます。電極の素材にはカーボン(炭素)が有効で、ケーブルでつないだ一方を泥の中に、もう一方を水の中に入れます。すると、泥の側から電子とプロトンが移動し、水の側で酸素がプロトンと電子と反応し、水をつくることで電流が発生します。

 微生物燃料電池で得られる電気エネルギーは小さいのですが、発電の持続性があります。たとえば夜の屋外や下水管の中など、バッテリーの設置や太陽光・風力を用いた発電が難しい場所でも、モニター用のセンサーを長期にわたって稼働させるなどの用途が期待できそうです。現在私たちは電極を工夫し、プラチナの代わりにメタン生成菌を用いて二酸化炭素からエネルギーガスのメタンを生成できる仕組みにし、より大きな電力と有用なガスとを得る研究に力を入れています。また昨年は、仙台の「秋保ナイトミュージアム」というイベントで、微生物燃料電池でLEDを灯すアートパフォーマンスにも参加しました。

 私は石川県内灘町の出身です。海に面した町で、中学生まではヨットレースに出場していました。環境問題に関心を持つようになったのは、大好きな海が汚れていくことに気付いたからです。東北大農学部に入り、微生物で環境改善する研究に取り組みました。研究者になろうという気持ちはなく、大学院に進んでも、文章を書くことが好きだから新聞記者になりたいと思っていました。しかし就職活動に行き詰まり、大学の先生がつくばの研究機関への就職を勧めてくださったことで、「やはり私は研究を通して環境問題の解決を頑張ろう」と決めました。

 一方で、環境問題について実際に行動したい、もっと多くの人に伝えたい気持ちも持ち続けました。東日本大震災でエネルギーの大切さを再確認したのを機に、子ども向け、市民向けの活動に力を入れるようになったのは、バイオマスエネルギーを入り口に、もっと環境問題にも社会の関心が広がってほしいという願いからです。

 私は大学での研究と教育が主な仕事ですが、ぜひ出前授業、講座、地域のイベントに呼んでいただきたいと思っています。皆さんの学ぶ気持ちにお応えできるよう努めますので、どうぞ大学までお問い合わせください。

(取材=2026年3月13日/東北大学青葉山新キャンパス 農学研究科 農学部棟3階 動物環境管理学、草地・動物生産生態学 学生・教員研究室にて)

研究者プロフィール

東北大学大学院 農学研究科 准教授
専門=環境微生物学・有機性廃棄物の有効活用・バイオマスエネルギー
多田 千佳 先生

《プロフィール》(ただ・ちか)1973年石川県生まれ。東北大学農学部卒業。同大学院農学研究科修士課程修了。筑波大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。茨城県科学技術振興財団、沖縄工業高等専門学校、産業技術総合研究所勤務を経て、2009年より現職。
著書に『生ごみからエネルギーをつくろう!』、共著書に『新技術開発による東日本大震災からの復興・再生』など。

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