研究者インタビュー

その海藻からもプラスチックを

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宮城大学 食産業学群 准教授
柳澤 満則 先生

レジ袋の素材から考えるバイオマス

 皆さんは2020年に、レジ袋の有料化がスタートした時のことを覚えておられるでしょうか?もしお手元のレジ袋に、素材についての説明文やマークが印刷されていたら見てみてください。実はバイオマス素材の配合率が25%以上のものは、無料で配布できるのです。

 バイオマスは、もとは生態学などで使われる専門用語でしたが、現在では「再生可能な生物由来の資源」という意味で広まっています。レジ袋の素材はポリエチレンで、石油だけでなくサトウキビなどの植物から作ることもできるのです。

 もちろん買い物にマイバッグを持参するなどして、資源を無駄遣いしないことは大切です。特に石油は有限で再生困難な資源である上、燃やすと二酸化炭素を出して地球を温暖化させるという問題があります。一方でバイオマスは元々が植物ですから、光合成で増えるという意味で再生が可能ですし、二酸化炭素も吸収してくれます。

 レジ袋の有料化には、もっと環境に配慮しましょうというメッセージが込められていました。そのためバイオマスで作られたものとあわせて、「海洋生分解性プラスチック」が100%のものも、無料配布が可能になっています。

 ポリエチレンを含むプラスチックは、リサイクルが難しい上、自然には分解されにくいという特徴があります。そのため海洋などの、環境汚染の原因になっているのです。しかし微生物などが分子のレベルにまで分解でき、最終的には二酸化炭素と水になるものもあります。これが生分解性プラスチックです。

 同じプラスチックでも、素材は石油由来なのか生物由来なのか、利用後は分解されにくいのか分解されやすいのか。今はこうした観点からも、私たちの生活や社会の仕組みを考える必要があるのです。

 私は石油などの化石燃料から作られているエネルギーや化学製品を、バイオマスから作るための研究をしています。ただし、バイオマスなら何でも良いわけではありません。原料について言えばサトウキビやトウモロコシは、エタノールに変換して自動車の燃料にするなど技術が実用化されていますが、そのぶん食料としての生産が減ったり価格が上がるなどの問題があります。

海藻からも燃料や化学製品ができる

 バイオマスから生産されるエタノールは、自動車用の燃料にもポリエチレンの原料になります。私はバイオマスから燃料や化学製品をつくるような研究に力を入れてきました。

 私がものづくり、中でも新しい素材の開発に興味を持ったのは中学生の時です。大学は、化学工学や物質工学の分野を学ぼうと考えて選びました。そして環境問題への注目が高まっていたこともあって、環境負荷を抑えられるバイオマスを原料としたものづくりの研究に取り組むことにしたのです。

 研究の中心に据えたのは、バイオマスから生産され、生分解性でもあるプラスチックの「ポリ乳酸」です。植物に含まれるデンプンや糖類を、乳酸菌で発酵させて乳酸を作り、その乳酸からポリ乳酸を作ります。牛乳などを発酵させた飲み物で知られている乳酸菌ですが、その生成物である乳酸からはプラスチックも作れるのです。

 私が研究を始めた当時のポリ乳酸は、まだ海外で実用化が始まった段階でした。現在では繊維製品や容器に少しずつ利用されるようになってはいますが、課題も指摘されています。私は特に、原料の問題に取り組んできました。作りやすさやコストの面ではサトウキビやトウモロコシが適しているため、どうしても食料と競合してしまうのです。

 基礎的な研究は特に、すぐに成果が上がって実用化・商用化されるものばかりではありません。ポリ乳酸の原料問題も長期戦で、私も含めて何十年も先を見据えた研究が続いています。

 私がまず取り組んだのは、セルロースから乳酸を作る研究です。セルロースは陸上の植物にたくさん含まれていて、たとえば草や木などが乳酸を作るための原料になり得ます。これらは、分解・発酵に適した状態にするための前処理に課題があるため、研究では製紙工場の廃棄物を原料に使うことで前処理の課題を回避しました。

 大学院では海藻に着目しました。メタン発酵でエネルギーを作る研究は進んでいたのですが、液体燃料やプラスチックの原料にする研究は、まだほとんどなかったのです。バイオマスとしての海藻には、陸上の植物に比べて分解しやすく、エネルギーや化学製品を作る上で効率が良いという長所があります。一方で生成物の量を得るのが難しいことが課題です。

 海藻の中には、あまり食用には適さないものもあります。また食べられる海藻でも、利用されずに廃棄される部位が少なくありません。資源の有効利用の観点からも、廃棄物処理の手間やコストの観点からも、研究の意義は大きいのです。

 たとえばアオサは、食べられる海藻の一つです。私も実験用にスーパーで買ってくることがあります(笑)。しかしこれが海岸に大量に漂着すると、始末が大変です。採って食べるどころではなく、海水浴場などに深刻な影響を及ぼしますし、水分と塩分が多いため焼却処分も簡単ではありません。

 しかしこうした例を含めて、海藻がバイオマスとしてもっと活用できるようになれば、海に囲まれた日本は大いに有利です。もしも漁業や水産加工業が盛んな沿岸部に小さな施設ができて、今は廃棄されている海藻や魚介類からエネルギーやプラスチックが作られ、それをまた漁業や水産加工業で活用するという循環ができたらどうでしょう。現時点ではあくまで理想ですが、そうした日がくることを願って研究を続けています。

バイオマスの未来には大きな可能性

 私の研究対象であるポリ乳酸は、今世紀に入って思わぬ注目を集めることになりました。3次元データを入力して立体物を生成する「3Dプリンター」のフィラメントの素材として、多く用いられています。ポリ乳酸のプラスチックとしての性質が、3Dプリンターでの用途にちょうど良かったのです。

 先ほど言ったように基礎的な研究の多くは、成果が上がって実用化されるまでに長い時間がかかります。しかし素材としての新たな利用法が見つかるなどして、そうした研究の積み重ねが将来脚光を浴びることもあり得るのです。

 私は竹の資源化にも取り組んでいたことがあります。竹は繁殖力が旺盛で、放置された竹林に悩んでいる地域もあるのです。資源化には、分解・発酵しやすくするための前処理に膨大なコストやエネルギーがかかります。

 そこで、竹を削って粉末にする機械を開発していた事業者と、共同研究をすることにしました。その機械は、小型で竹林のそばまで持ち込めますし、生の竹を1段階で1mmの20分の1という細かい粉末にすることができます。細かい粉末にできれば、前処理の効率も上がり、エネルギーやコストを抑えられると期待されます。

 日本は石油などの地下資源に乏しく、多くを輸入に頼っています。価格の変動や災害・紛争などに大きな影響を受けることは、皆さんもご存じの通りです。再生可能エネルギーとしてよく取り上げられる太陽光や風力に比べると、バイオマスの認知度はまだ高いとは言えないかもしれません。しかし原料を保存しておいて必要な時に利用できる点や、エネルギー源としてだけでなくプラスチックなども生み出せる点、さらにはエタノールなどにしておけばいつでも使える点など、バイオマスには大きな可能性があります。
 
 化学式を知らなくても、細かいところまで理解できなくても構いません。市民の皆さんにもバイオマスの全体像やプロセスに関心を持っていただき、学んでいただければ幸いです。
 
 

(取材=2026年3月17日/宮城大学 太白キャンパス 研究棟5階 柳澤研究室にて)

研究者プロフィール

宮城大学 食産業学群 准教授
専門=バイオマス変換工学・化学工学・応用微生物学
柳澤 満則 先生

《プロフィール》(やなぎさわ・みつのり) 1983年長野県生まれ。静岡大学工学部卒業。静岡大学大学院 工学研究科博士前期課程修了。東京工業大学大学院 理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。京都大学大学院 農学研究科研究員を経て、2012年、宮城大学食産業学部に助教として着任。2021年より現職。共著書に『微生物を用いた有用物質生産技術の開発』など。

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