東北福祉大学 健康科学部 保健看護学科 教授

ペアレント・トレーニングを始めてもうすぐ20年
本学において私が担当するペアレント・トレーニング講座はもうすぐ20年目になります。ペアレント・トレーニング(以下、ペアトレと略します)はアメリカで生まれ、行動理論を理論的背景としてプログラムが構成されています。日本でも発達障がいのある子どもの家族支援をはじめ実践が広がり、多くの効果が実証されています。
発達障がいは「脳機能の問題」であり、本人の努力不足でも、育て方が原因でもありません。誤解されたまま子どもへの厳しい対応(否定的な注目)が続くと、子どもの心は傷つき、うつ病・ひきこもり・暴力など解決が難しい問題(二次障害)へと発展するリスクがあります。これらは、子どもに関わる全員が正しく理解し対応すること、子どもと家族に早期からの適切な支援があれば防ぐことにつながります。また、診断するには至らないものの傾向がある「グレーゾーン」の子どもも同様の支援が必要です。
その支援の一つがペアトレであり、「上手にほめる」(肯定的な注目)を中心に、子どもの行動への効果的な対応等について保護者が学び、子どもに実践するものです。子どものよい行動を増やし、よりよい親子関係を目指します。本学では週1回ペースの全10回(約3カ月)でスタートしましたが、利用のしやすさを考慮しながら工夫してきました。私が経験を重ね、効率のよい説明や個別性のあるアドバイスができるようになったことで、いまは隔週全3回のプログラムを5月と2月の年2回、対面で5名程度のグループ方式で定期的に開催しています。
ペアトレの初回に現状をうかがうと、保護者はちゃんと育てなくてはという思いが強く、一生懸命で真面目さゆえに、厳しくなっているように思います。子どもも保護者も自分を責め、辛さをかかえ、親子関係が悪化してしまうことがあります。私が実践しているケアは、お母さまの肩に後ろからそっと手を置き、「大丈夫、大丈夫」と言いながら、新たな方向を一緒に見つめながら「まずはやってみましょう」と進むイメージです。
上手にほめることで親子ともに良い変化が
ペアトレの基本は「ほめる」ことです。ほめ方について聞いてみると、「うちの子はほめるところがありません」「ペアトレの本を読んでほめたのに効果がなかった」「すごい、すごい、とほめたら子どもに嫌がられた」いう保護者がいらっしゃいます。私の講座では、ほめる行動を見つけられない場合、その日の朝の子どもの行動を振り返り、一緒に探すところから始めます。例えば、朝は一人で7時に起きなければと保護者が思いすぎると、3回声がけしてやっと起きた場合は「全然できていない」という認識になります。しかし、起き方ではなく、「7時に起きた」行動に注目し「7時に起きたね」とほめるようアドバイスすると、できるようになります。また、効果的なほめ方については、二人ひと組になって実際にほめる練習をロールプレイします。ほめる行動の表現のコツを伝え、声のトーンや話す速度、視線の高さは子どもより2㎝下とか、肩に手が置ける距離に近づいてなど個別に具体的にアドバイスし、子どもの立場からみてどれが効果的かも体験します。次回の2週間後までに、1日5回ほめることを計3日間実践し、ホームワーク(宿題)として記録もしていただきます。
これまで講座修了後の感想には、「怒ることが少なくなった」「イライラしなくなった」「自信がついた」「うちの子はほめるところなんて一つもないと思っていたが、結構できていることに氣がついた」「ほめることでプラスにこどもが変わると、親子で落ちてしまうような感覚が止まってくれた」「子どもが苦手なものに挑戦するようになった」「チックが減った」などがありました。このような感想をうかがうと、私自身がペアトレに出会えた喜びとやりがいを感じ、継続の力になっています。
実践を研究・教育に、そしてライフワークとして
私は東北大学病院の外科病棟のつぎに小児病棟で勤務しました。小児看護の難しさを感じ、深く学びたいと思い、山形大学大学院に入学します。子育てをしながら、夜勤もある仕事と勉強で本当に大変でしたが、小児看護専門看護師の資格を取得しました。小児病棟で副師長を務めた後、母校の保健学科で助手になります。現場から離れたくない氣持ちが強かったのですが、これからの看護を担うかわいい学生たちにちゃんと教育したい思いが大きくなり、いっそうの勉強の必要を感じました。そこで、東北大学大学院医学系研究科に入学し、発達外来において、薬物療法とともに心理社会的療法としてペアトレを開催していた恩師に出会い、ペアトレの実践と研究をご指導いただき、博士号を取得しました。
私が本学に着任したのは、ちょうど発達障がいのある子どもたちのための「特別支援教育研究室」が開設されたときでした。本学の「特別支援教育研究室」では、ペアトレのほか、ソーシャルスキル・トレーニングや個別の学習支援など、福祉、教育、看護、リハビリ、医療がそろっている本学ならではの取り組みがあり、連携による効果がみられています。発達障がいに関しては、受診希望数に対して診療できる病院が少ないため、初診まで何カ月も待たされ診断が受けにくい現状があります。未診断やグレーゾーンの子どもと保護者は病院や公共機関の支援を受けることが困難な現状があります。ペアトレは、大学の地域貢献の一環という特徴を生かし、広報は大学HPで行い、発達障がいの診断の有無や子どもの年齢IQなどの制限なく、子育てに悩む保護者が希望すれば断ることなく利用可能としています。病院や公的機関ではできない支援として意義を感じています。さらに、新型コロナの影響で対面グループ方式の講座ができなくなった時期に、子育ての悩みが深刻化するリスクに対して何かしなくてはと思い、個別のオンライン講座を開始しました。九州など遠方からの利用もあり、お父さんの受講が増えたりする効果もあり、今でも継続しています。対面グループ方式ペアトレ後のフォローアップとしても利用されています。
私が取り組んでいる研究は、おもにペアトレ後の変化について、保護者へアンケートやインタビュー調査を行い、その言葉を大切にして分析する方法です。例えば、「子どもから『どうせダメなんだ、どうせできないし』という言葉が聞かれなくなりました」というデータから、これは「子どもの自己肯定感の低下を改善する効果」であると推測し、他に類似性のあるデータはないか比較し、カテゴリを抽出していく研究方法です。また、「家族で穏やかに過ごす時間が増えました」という言葉から、子どもだけでなく家族への効果もあるととらえて分析していきます。保護者のペアトレでの頑張りと調査へのご協力に感謝しながら、研究結果としてまとめることにより、効果について科学的根拠と自信をもって、次の対象者にケアを実践できるようになります。専門的な知識と技術を使って経験を重ね、目の前の方々の幸せのお手伝いができる学問、それが看護学であり、私のできるケアだと考えています。そして、その目の前の方々は、私の場合、子育てに悩み、おそらく人生においてつらい時期にあるご家族であり、ちょっとでも幸せのお手伝いができたなら、私も幸せを感じます。そして、教育活動として、ゼミ学生・他大学の大学院生・保育士などのペアトレ見学も積極的に受け入れています。小児看護専門看護師として、実践・教育・研究の役割を果たそうと頑張っています。
最後に、ペアトレの最終回にいつも私が伝えている4つのアドバイスをご紹介したいと思います。「1.大声よりも歩きましょう!」(子どもに近づいて、目を合わせて)、「2.ささいなことで喜びを感じましょう!」(日常生活はささいなことから成り立っています。ささいなことで喜びを感じることのできる感性を)、「3.『ありがとう』、『ごめんなさい』が言える子どもを育てましょう!」(自立へ向けて、きちんと言えるように大人がモデルになって)、「4.自分で自分をほめましょう!」(じゅうぶん頑張っていますよ)。
大学の講義と実習指導をしながらの実践は大変ですが、時間を確保し、これからも一人でも多くの方にペアトレを伝え、よい変化を実感していただけるようライフワークとして活動していきたいと思います。
研究者プロフィール

専門=小児看護学
《プロフィール》(とみざわ・やよい) 1965年宮城県生まれ。東北大学医療技術短期大学部 看護学科卒業。山形大学大学院医学系研究科 修士課程修了。修士(看護学)。東北大学大学院医学系研究科 博士課程修了。博士(医学)。東北大学病院小児病棟副師長、東北大学医学部保健学科 看護学専攻助手等を経て、2006年東北福祉大学に講師として着任。2017年より現職。小児看護専門看護師。東北福祉大学 特別支援教育研究室保護者支援相談室担当。
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