名著への旅

第69回『タイムバインド』

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『タイムバインド』
 A.R. ホックシールド著
(坂口緑・中野聡子・両角道代訳)
筑摩書房
 2023年6月10日 第一刷発行


 ワーク・ライフ・バランスはなぜ実現されないのか?この問いに、綿密なフィールドワークをもとに、特に企業や労働者の「時間拘束」の観点から迫るのが本書の趣旨である。なお著者のホックシールドは「感情労働」という概念を提唱したことで知られる。

 本書は、「時間」という限られた資源が職場に費やされる構造に迫る。対象となる「アメルコ」社は時短勤務や育休などのファミリーフレンドリーな制度を導入する一方で、労働者は職場にいたがる。職場は理知的で予測可能性が高いがゆえに居心地が良いが、家庭は予測不可能なことが起こり、努力してもそれが評価に直結しない。そのため、職場は家庭からの「避難港」となり、他方で家庭はかつての職場のように時間的効率の合理化が求められる場となる。職場と家庭の逆転現象を、本書は明らかにする。

 「時は金なり」というが、その貴重な「時」を巡る労働環境と家庭環境の内部でのせめぎ合いこそが現代的課題であることを著者は指摘する。それゆえ、私的な時間を取り戻す「時間運動」が求められている。

(寺)
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