研究者インタビュー

地域のつながりと経済活性化にグッドマネーを

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宮城大学 事業構想学群 准教授
宮﨑 義久 先生

日本でも身近になった地域通貨

 小学校時代は天文少年でした。当時、西公園にあった仙台市天文台が主催する天文教室に通い詰め、理系の大学に進むつもりで勉強していたのです。しかし受験がうまく行かず浪人し、「文系だけど得意な数学を生かすことができそう」という安易な気持ちで経済学部に進みました。

 目を開かれたのは、2 年次に受講した「世界経済論」です。この講義では発展途上国の貧困問題などをテーマとして取り上げ、「世界経済の諸問題は身の回りの社会課題とも複雑に絡み合って,グローバルかつローカルに論じられる」という考え方に強い印象と共感を覚え、担当教員であった矢野修一先生の研究室を志望しました。

 当時、私が卒論のテーマに選んだのは「地域通貨の歴史的な意義に関する一考察」になります。円やドルといった国家がその通用力を認めた「法定通貨」とは違って、ある特定の地域やコミュニティ内で使用することができる通貨です。市民が自ら通貨を発行して流通させることで、互いに助け合ったり、地域経済を守ったりすることを目指します。歴史的に日本を含む世界各地に様々な地域通貨があることを知り、そのヴィジョンと可能性の大きさに魅せられました。

 ゼミで学ぶことの楽しさを知り、大学院に進学された方や研究者になった先輩方と交流するうちに、「自分も研究者になりたい」と思いはじめました。矢野先生には「文系大学院に進んでも、30 歳を過ぎるまでは自分の稼ぎでご飯を食べていくことは難しい」と忠告されましたが、「自分はそもそも民間企業で働くのに向いていない」という自覚もあったのです(笑)。

 北海道大学の大学院へ進学後、西部忠先生にご指導いただき、地域通貨の研究を続けました。しかし矢野先生の言葉どおり思い通りには研究は進まず苦戦続きで、博士号を取得して小樽商科大学に就職したのはちょうど30 歳の時です。博士論文では米国の大恐慌期に発行された地域通貨を調査し、現代の日本の状況と比較して論じました

 法定通貨の円は硬貨や紙幣だけでなく、銀行預金や有価証券など様々な形をとります。地域通貨もまた、実に様々な形態があります。日本では江戸時代に「藩札」が流通していました。幕府ではなく各藩が発行し、その領内だけで通用させた紙幣です。現代では、国や自治体が発行する地域振興券やプレミアム商品券も、「その地域でだけお金のように使える」という意味では、広義の地域通貨と言うことができるかもしれません。しかしながら、その理念や目的は、本来の地域通貨とは大きく異なるものとなっているのが現状です。

地域通貨は人をつなぎ地域経済をうるおす

 地域通貨についての説明をここまでお読みになって、「全国でもインターネットでも使える企業発行のポイントとどこが違うのか」「たとえ少しお得だとしても、使える地域や期限が決まっているのは不便ではないか」「円などの法定通貨に替えることはできるのか」などの疑問を持たれたかもしれません。これがまた、地域通貨によって色々なのです。

 実は法定通貨や企業ポイントにはない地域通貨ならではの特長とは、「便利さ」や「お得感」ではありません。地域通貨の本質的な機能は、「地域コミュニティの形成・維持」や「地域経済への寄与」にあるのです。

 お金は人と人をつなぎますが、格差を生むなどして時には地域社会を分断もします。国内外からの観光客でにぎわっている地域も、実は域外から入ってきた以上のお金が域外へ流出したり、若い人材を大都市に奪われたりしています。持続可能な地域のあり方を考えるにあたっては、「人のつながり」と「域内経済循環」こそが鍵なのです。そしてこれらを支える機能こそが、法定通貨や企業ポイントにはない、地域通貨ならではの本質だと私は考えています。

 神奈川県の旧藤野町は、2007 年に合併して相模原市緑区の一部になりました。その2 年後、有志が集まって、藤野地区における住民同士のつながりと暮らしの安心感を高めるための「よろづ屋」という地域通貨の仕組みを始めます。1 萬(よろづ)が1 円に相当しますが、貨幣も、カードも、デジタルのシステムもありません。参加メンバー同士が紙の通帳を持ち寄って、プラス・マイナスの数字と残高を手書きし、お互いにサインし合うのです。約600 世帯、1,500 人ほどが利用していて、地域のパン屋、レストラン、ヨガ教室などの他、個人間でも作業を手伝ってもらったり、子どもを見てもらったりするのに使われています。移住してきた若い世代にも、「地域の人に氣兼ねなくお世話になれる」と好評だそうです。

 ボランティアで始まった「よろづ屋」は、そもそも法定通貨とは無関係です。一方で岐阜県飛騨・高山地区を中心に流通するデジタル地域通貨「さるぼぼコイン」は、金融機関である飛騨信用組合が、地域活性化のため2017 年に始めました。デジタルの仕組みが整っていて、条件付きながら法定通貨への「払い戻し」も可能です。市民の約4 人に1 人がアプリを利用していて、使える加盟店は、隣接する自治体も含めると、約2,000 店。市役所の窓口での手数料、公共施設の利用料金、自動車の税金や固定資産税の納付書払いなどにも使えます。

生活と人生にグッドマネーを

 私自身も最初の赴任先である北海道小樽市で、実際にデジタル地域通貨を運用する機会に恵まれました。2012 年からおよそ2 年間にわたって行われた「TARCA(タルカ)」という電子地域通貨システムの社会実験で、アドバイザー兼事務局員を務めたのです。

 当時の人口がおよそ13 万人ほどだった小樽市は、観光地として人氣を集める一方、人口減少や地域経済の停滞という問題が顕著でした。その解決に地域通貨がどう寄与できるかが、実験と研究のテーマです。反省点も多いのですが、地域にとっても私にとっても貴重な経験になりました。

 2016 年からは宮城県に戻り、仙台高等専門学校の名取キャンパスに勤務しました。2022 年、名取市から「デジタル地域通貨の導入を検討しているので協力してほしい」という依頼があり、運用が始まった2024 年度からは、市のデジタル地域通貨利用促進委員会で委員長を務めています。市が発行する「なとりコイン」は去年の8 月に始まったばかりで、展開はまだこれからです。地域商品券のように店舗で1 度しか使えない仕組みですが、地域のコミュニティや経済の活性化に結びつくよう、私も力を尽くしていきたいと思っています。

 地域通貨には、他にも「コミュニティ通貨」「エコマネー」などの呼び方がありますが、たとえば「グッドマネー(良貨)」という呼び方はいかがでしょう。単なる「便利さ・お得さ」を超えて、また「地域経済を回す仕組み」であることも超えて、私たちの生活と人生を豊かにするためのメディア(媒体)である、という意味が込められています。

 「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。16 世紀半ば、金融業者でイギリス国王の財政顧問だったグレシャムが、エリザベス女王に新しい貨幣の改鋳を進言した時の言葉です。これに対して20 世紀のオーストリアの経済学者ハイエクは、人々が望ましいと考える貨幣を選択することで貨幣価値の安定性を図るという意味で「良貨が悪貨を駆逐する」と考え、「グッドマネー」とは何かという視点を世の中に提示しました。

 大学院時代の恩師である西部先生は、ハイエクのこの言葉を援用して「デジタル- コミュニティ通貨を人々の生活と人生を豊かにするグッドマネーにする道を探ろう」と呼びかけておられます。2018 年に設立されたコンソーシアム「一般社団法人グッドマネーラボ(通称)」には、研究者だけでなく、デジタル地域通貨の運営に携わっている方や企業人も参集しており、私も研究員兼副事務局長を務めています。

 地域通貨について考えることは、私たちの価値観について、あらためて考えることでもあります。お金はもちろん大切です。しかし家族をはじめとする近しい人々との関係、地域の人々との助け合える関係、そして世代を超えて地域に受け継がれてきた価値と未来に残すべき価値などは、法定通貨だけで計ることはできません。私は学ぶことが楽しく、学びこそが最高の娯楽だと思っています。皆さんにもぜひ地域通貨について学んでいただき、ご自分と地域にとってのグッドマネーについて考える機会を持っていただきたいと願っています。

(取材=2025年3月6日/宮城大学サテライトキャンパス ミーティングスペースにて)

研究者プロフィール

宮城大学 事業構想学群 准教授
専門=コミュニティ経済・地域通貨論・進化経済学
宮﨑 義久  先生

《プロフィール》(みやざき・よしひさ) 1981 年宮城県生まれ。高崎経済大学経済学部卒業。北海道大学大学院 経済学研究科 博士後期課程修了。博士(経済学)。小樽商科大学商学部 学術研究員、仙台高等専門学校 助教、同准教授を経て、2023 年より現職。共著書に『北海道社会の課題とその解決』、『地域通貨によるコミュニティ・ドック』など。

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