古寺・古美術の見学印象記である本書は、亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』とともに、発表以来数多くの読者に愛されてきた。亀井の本は高校生時代に一度読んだが、これは初読である。
著者がこの時奈良付近に遊んだのは大正7年、29歳になって間もなくの時期であったようだ。三分の一ほど読み進んだ時点でどうにももどかしさに堪え切れず、五月の連休、近隣の博物館に二日間通い、大判の美術全集と引き較べながら楽しんだ。それにしても、知識の深さと独自な想像の世界は賞嘆の域を超えている。とりわけ薬師寺東院堂聖観音についてのくだりは、自身「古典的傑作」としているだけに、若さと情熱に溢れ、日本語の美しさが匂い立つ名文である。上の全集解説子も「この一体があるために日本の彫刻は世界の彫刻に決して負けない」としていた。
今回初めてその存在を知った仏像もあった。いつの日か本書を携え、思う存分大和の地を逍遥したいと思わせずにはおかない一冊である。
(曜)
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