研究者インタビュー

データを図化して氣象の謎に挑む

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宮城大学 事業構想学群 准教授
高橋 信人 先生

データを地図に表すことの面白さ

 私の専門は地理学の中にある氣候分野で、日本地理学会の他に、日本気象学会や、地理情報システム学会にも所属しています。地域の氣候特性やその形成要因に加えて、人間活動との関係性も研究対象となるところがこの分野の特色です。

 地球や天候、災害や社会問題に加えて、そうした対象の本質に迫るためのデータを組み合わせ、地図上に適切に視覚化、「見える化」します。地図上に示された複数のデータの分布からデータの関係性やその背景に潜むことがらを読み解き、今回のテーマである氣候変動のような地球規模の問題から、水害被災状況のような身近な問題にまで、科学的にアプローチすることができるのです。

 地球規模のデータの収集には、現在では人工衛星を用いるのが一般的です。人工衛星には通信衛星や氣象衛星など多くの種類があって、スマートフォンやカーナビゲーションで現在位置を示すGPS(global positioning system)衛星は、皆さんもよくご存じでしょう。最近ではGPSを含めたGNSS(global navigation satellite system)測量により、非常に高い精度の位置情報が得られます。一方、災害の監視や資源調査、そして地球環境の研究に用いられる地球観測衛星には、あまりなじみがないかもしれません。人工衛星に搭載した電磁波センサで地球を観測することを、「衛星リモートセンシング」と言います。また、その観測データや、地形、建物、人口などの地理的なデータをあわせて地図上に視覚的に表現するシステムをGIS(geographic information system)、地理情報システムと言います。

 科学技術の進展に伴い、さまざまな新たな高精度のデータが大量に蓄積され、これまでに表現できなかったことを地図上に描けるようになりました。氣候変動の調査に必要な大氣のデータはもちろんのこと、微細な地形、都市の3次元モデル、人々の動きなど、GISなどで色分けされた地図をご覧になったことがあるかもしれません。

 研究をすすめる中で、地図を作ってはデータの関係性に仮説を立てて、新たにこういう切り口でデータを見ればその仮説が検証できるとか、こういう地図を作ればもっと表現したいことが明瞭になるとか、繰り返し考えます。自身の想像していた通りの図ができたとき、意外な図が現れたとき、いずれの場合でもデータを地図上で表現できた瞬間がとても楽しいのです。

昔の天氣図には「前線」が多かった?

 2024 年も、日本各地で大雨による災害が発生しました。東北地方では7 月に日本海側を中心に大きな被害が出ましたし、9 月には、1 月の地震被害から復旧しつつあった能登半島が大雨に襲われています。ニュースや天氣予報では、低氣圧や前線などに加えて、線状降水帯や竜巻といった氣象用語もよく聞くようになりました。このうち、特に前線が発生しやすい場所、「前線帯」の動きをみることが、私の中心的な研究テーマです。

 地球の大氣には密度・氣温・湿度などがほぼ等しい塊があって、これを「氣団」と言います。氣団と氣団の境界面が「前線面」、これが地表と交わるラインが「前線」です。氣団の移動の仕方によって温暖前線や寒冷前線などに区別されること、前線に沿って雲が発生して雨が降りやすいことなどは、皆さんもご存じでしょう。

 日本を含む中緯度地域は前線帯が季節によって南北に移動します。年ごとの動きの違いは各地の氣温や降水量などの氣候に大きく影響しますし、一方でエルニーニョ現象などの地球規模の変動と深く結びついています。私は前線帯に関するデータを解析することで、各地の氣候変動の特性、規則性、そして原因の究明をしてきました。

 博士号を取得した論文の題名は、「大規模循環場の季節推移からみた日本付近における秋雨前線活動の年々変動」です。秋雨前線は9 月から10 月にかけて日本付近に発生し、南岸沿いに停滞して東日本を中心に「秋の長雨」を降らせたり、台風の影響が加わって大雨を降らせたりします。

 博士論文を執筆した当時、梅雨前線に比べて秋雨前線の研究は遅れていました。22 年分のデータを詳細に調べましたが、昔の天氣図にはやけにたくさんの前線が描き込まれていることに氣付かされます。どこまでを前線として描くかなど、実は天氣図にも作成者の主観が入るのです。当然ながら、調査データの均質性は重要です。博士課程修了後に、人工衛星のデータが取り入れられた高精度の大氣データに基づいて、前線帯のデータを自動的に作る方法の開発に取り組みました。

 日本周辺の季節的な前線帯の動きは、いわば日本周辺の大氣の状態を表しているとも言えます。最近は前線帯の動きを単純な指数で表し、その指数を介して日本各地の氣候と地球規模の氣候変動との関係を調べています。各地の氣候変動が、前線帯の変動でどの程度説明できるかがわかれば、温室効果ガスや都市化の影響の評価にもつながります。氣候の将来予測や因果関係の解明は、複数の原因が絡み合っていてなかなか難しいですが、だからこそ「前線帯」を鍵にシンプルに考えることで、新たな切り口を開けるのではないかと期待しているのです。

恋しかった京都の夏の寝苦しさ

 私は生まれてから高校までを京都市で過ごしました。高校の授業で大陸移動説を紹介する映像を見て、そのダイナミックさに魅了されます。地球科学について調べるうちに、大学では実社会ですぐに役に立つ科学技術よりも、ものごとの構造や原理を明らかにする研究に取り組もうと思うようになりました。

 せっかくだから京都を離れて遠くに行こうと考えたのですが、大学を受験するまで東北地方に来たことはありませんでした。東北大学を選んだのは、希望する研究室があったことと、母から「以前仙台に旅行したけど良いところだった」と聞いていたことも影響したかもしれません(笑)。

 京都と仙台の氣候の違いに、私は地形や氣象への関心をさらに深めました。梅雨期から夏にかけて吹く「やませ」がもたらす寒さには驚いて、「京都の夏の寝苦しさが恋しい…」と思ったほどです。一方で48 号線をバイクで走って山形に抜けると急に雲が消えて暑くなるなど、東北での生活は私に大きな刺激を与えてくれました。大学院の修了後は東京で4 年間暮らしましたが、縁あって本学に職を得たことで、再び仙台で研究ができることになったのです。

 2011 年3 月に東日本大震災が発生した時、私は今の大和キャンパスではなく、太白キャンパスの研究室にいました。4階でもちろん大きく揺れましたが、地盤が硬いこともあって大きな被害は免れます。近くだった自宅に様子を見に帰ると、こちらも目立った被害はありません。また幸運にも、大学、自宅ともに水道や電氣も早期に復旧しました。

 東北大学時代の先輩に誘われて、岩手県宮古市の仮設住宅の調査に入ったのは、翌2012 年です。プレハブ仮設の室内の温度を詳しく調べると、居室とトイレの間で、また床からの高さによって、大きく違うという結果が出ました。避難先で健康を損ねて亡くなる「災害関連死」を少しでも減らすため、こうしたデータが災害時の施策に活かされることを願ってやみません。

 氣候変動という言葉は、短期的なものにも長期的なものにも使われます。防災や熱中症の予防などについては、たしかに近年の変化に注目しなければなりません。一方でそのためにも、長期的な氣候変動についても調べたり考えたりする必要があります。地球には約46 億年の歴史があり、人類の誕生以後も温暖化と寒冷化を繰り返してきました。また日本の氣候変動を正しく理解するには、地球全体の氣候変動との関係にも目を向けなければなりません。時間的、空間的な枠組みをどうとるかによって、氣候変動の見え方や論じ方、とるべき方策は変わりうるのです。

 経済や産業、健康や防災などの身近な問題と、氣候変動をはじめとする地理学や地学で学ぶことがらは、実は強く関係しています。中学や高校では他科目の勉強や入試の選択科目の関係で、なかなか学んだことを深堀りする機会が持てないかもしれませんが、一歩踏み出して本や動画などを探すと、魅力的なコンテンツがたくさんあります。今これをお読みの皆さんも、もしかしたら自らのそのちょっとした一歩でご自身の「パッション」というスイッチが入るかもしれません。 
 この分野に限らず、何かで面白さを感じたら、自ら少し深掘りをすることを習慣づけてみてはいかがでしょうか。自分のパッションのスイッチの位置がわかれば、学びがたちまち楽しいものになること間違いなしです。

(取材=2024年12月16日/宮城大学大和キャンパス 本館4階 環境地理学研究室にて)

 

研究者プロフィール

宮城大学 事業構想学群 准教授
専門=環境地理学・地理情報学
高橋 信人  先生

《プロフィール》(たかはし・のぶと)1976年京都府生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科 博士課程後期修了。博士(理学)。東京大学工学系大学院 都市工学専攻 学術研究支援員、東京大学空間情報科学研究センター 研究機関研究員・特任研究員を経て、2009年、宮城大学に食産業学部(当時)助教として着任。2017年より現職。
共著書に『図説 世界の気候事典』、『地理情報科学 GISスタンダード』、『被災者支援のくらしづくり・まちづくり 仮設住宅で健康に生きる』など。

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