名著への旅

第15回『清貧の思想』

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 バブル経済崩壊直後に出版された本書は、当時大変によく売れたという。その理由はどうあれ、疑い無く賛辞措(お)く能わざる良書である。当時日本に対する諸外国の関心と質問に答えるため、「日本文化の一側面」として著者が話してきたものを、より正確に、認識を深めた形で書かれたものである。

 簡素にして風雅。物欲に囚われず、足るを以て知り、むしろ心の自由を尊ぶ。 ── これを著者は「日本文化の精髄」とする。その生き方が思想となって伝えられてきた先人たち、光悦・長明・良寛・大雅・蕪村・兼好・芭蕉らの事例と、それに対する著者の思想とをまとめた二部構成である。

 ひとつだけ紹介しておこう。甥の放蕩に対する意見を頼まれて生家に出向いた時の良寛のエピソードが実にいい。清貧の僧良寛が今なお愛される所以(ゆえん)で、「わたしもこの口碑(こうひ)を軽んじない」とする著者の心意氣もまた見事である。

 経済・効率・競争原理至上主義の行き着く果ては何であったのか。失われた20年の後、我々はつい最近その警鐘を聞いたばかりではなかったか。だからこそ本書の持つ意義は今再び問い直されてよいものと確信する。

(曜)
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