風船大佛 次郎 著
新潮社 日本文学全集 21
1971年7月20日 初版発行
昭和30年に発表された作品である。この前後に目を向けてみると、川端康成『山の音』(29年)、三島由紀夫『金閣寺』(31年)、井上靖『氷壁』(32年)など、いずれも傑作ぞろいで、日本文学史上黄金期の観を呈している。
この小説が真に称賛されるべきは、珠子の創造にある。カメラ製造会社の社長であるが絵描きへの憧憬を捨て切れない村上春樹の娘で、放縦な兄、圭吉の妹である。小さい時の病氣のせいで、周りから鈍い印象で見られてしまうが、その名のとおり純粋で、人を素(す)のままに理解してしまう。春樹と珠子が互いに向け合う眼差しの温もりが静かに語られていく。そうして、ラストシーンにおける情景と情感は、やはり小説、いや、人間が生きるということはこうあって欲しいという希求に繋がっていく。
前掲三作品は書店店頭でも比較的入手しやすいのであるが、本作は名作であるにもかかわらず、古書市場でもなかなかお目にかからないのが残念である
(曜)
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