1945年8月6日月曜日、広島市、午前8時15分。
原爆による未曾有の戦禍と不安が、『黒い雨』というタイトルによく表われている。自らも被爆した閑間(しずま)重松の『被爆日記』を中心として話が展開され、妻のシゲ子、養子格として引き取っている矢須子とともに、彼らが被爆直後の大困難時に何を見、どう行動し、いかに生活したか。また、それから数年の後、何が問題になっているのか。見たまま、聞いたまま、感じたままが淡々とした筆致で語られていくのだが、著者の人物描写のうまさは冴え渡っており、重松の言動は生き抜くことへの人間の不屈さと希望の光をさえ感じさせる。
著者は広島県安那郡加茂村(現在の福山市加茂町)の出身であるが、これは唯一の被爆国日本でしか生まれ得ない作品であり、いわゆる「原爆文学」の頂点とされる。1989年、今村昌平監督により映画化され、こちらも高い評価を得ている。
2011年3月11日金曜日、東北地方太平洋沖、午後2時46分。
戦災と天災の違いこそあれ、普段の日常を願う氣持ちはいつの時代でも変わらない。今年の夏は例年にも増して、世の平和と平穏への祈りが日一日と高まっていくことだろう。
(曜)
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