本そのものの魅力が詰まった一冊である。
表紙はあかがね色の絹で、動かすとほのかに光る。パラパラとページをくってみると、中は二色刷りになっている。小学生の頃、装丁に惹かれて母の書庫から引っ張り出したのが出会いだったと記憶している。
劣等感に満ち溢れた主人公の少年バスチアンは、いじめっこに追われて飛び込んだ古書店で一冊の本に惹かれて盗んでしまう。物語を読み進めるうちにバスチアンは多種多様なキャラクターや情景の描写に引き込まれていく。徐々に現実の世界と物語の世界が交錯し始め、バスチアン自身が物語の世界に入り込んでしまう。
この物語では、単に美しく、楽しく、賢くあることを礼賛するのではなく、あらゆる醜さにも焦点が当てられている。物語の世界で身も心も記憶も変容していく主人公の姿に、自分が自分であることや本当の善悪について考えさせられる。
廉価な文庫版も発刊されているが、装丁が物語のカギとなるため、上製本の単行本版でこそ最大限に魅力を味わうことができるだろう。
(志)