名著への旅

第25回『日本語ぽこりぽこり』

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 エッセイは日常の微細な出来事に焦点をあて、読者に楽しく「振り返り」をもたらしてくれるが、本書はそうした営みを日本のみならず諸外国(主には米国)との往復を通して与えてくれる。このことは、筆者が「外国人」であって、日本語を第一言語としていない「よそもの」性がそうしていると捉えがちだが、それ以上にかれの持つことばやものごとに対する敏感さと勤勉さの賜物ではないか。

 日本とイタリアとアメリカの「柿」、古代ローマとスペースシャトルと鉄道の軌間、アメリカの“火鉢”、メキシコ風サンダルと“草鞋”の関連性など…幅広い話題を通して、わたしたちの日常が過去および世界と結びつきうることに氣づかせてくれる。

 わたしが最も好きな文章は「包丁がメロンの上に落ちても、メロンが包丁の上に落ちても、切られるのはメロンだ」というインドの諺が登場する「メロンの立場」だが、その意味するところは実際に読んで確かめていただきたい。

(寺)
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