名著への旅

第22回『1984年』

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 1984年4月4日

 ウェリントンが日記に書いた、記念すべき一言である。

 物資不足と絶え間ない戦争で荒廃しつつある1984年のロンドンは、厳格な統制が敷かれた社会。主人公のウェリントンは、真理省という役所で記録の改竄を仕事としているが、自分の境遇に不満を持ち、危険行為である日記を始める。その後は様々な活動に手を染め、未来に希望を見出すものの、最後は捕縛され、「治療」の果てに、自分に嘘をついていないと確信しながら、嘘をつくようになってしまう。自分自身をも改竄したのである。

 「1984年」は、一般に全体主義や管理社会の恐怖を書いたとされる、古典的サイエンス・フィクションである。言葉遊び好きな著者が、二重思考、ニュースピーク、101号室といった聞きなれない単語をふんだんに使いつつ、埃っぽく薄汚れた世界を描き出す。

 こう書くといかにも読み難く思われるかもしれない。ソ連が前世紀のものとなり、題材に古めかしさを感じる方もいるかもしれない。しかし読み終えると、私達がいつも隣り合わせているものが垣間見える氣がして、不思議に合点がいく一冊である。

(伊)
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