名著への旅

第20回『足摺岬』

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『足摺岬』足摺岬
田宮虎彦 著
新潮社 日本文学全集35 より
1971年7月20日 初版発行

 小欄での私の担当は今回で終了する。最後に、私自身がこの先も長く大切にしていきたい作品を取り上げることにした。

 この集は、『落城』『絵本』『小さな赤い花』を始め、著者の作品計10篇を収める(カップリングは『広場の孤独』他、堀田善衛の4作品)。中でも『足摺岬』は代表作と呼んでいいだろう。現地には本作冒頭部を刻んだ文学碑がある。

 岬に程近く、老遍路と行商の薬売りが泊まる宿屋に主人公「私」がある目的を抱いてやってくる。この三者に宿屋のお内儀(ないぎ)とその娘が寄り添うように絡まる。物語前半部で、ずぶ濡れの「私」をこれらの者たちが介抱する場面が出てくる。余計な言葉を一切用いずして、しかも人物と場の情景を鮮やかに現出させ、胸震わせる余韻を残す稀有(けう)な例である。人の誠(まこと)は信ずるに足る、との思いに充たされる。

 調べた範囲では、旺文社文庫、新潮文庫、講談社文芸文庫などに本作が収められている。

 約5年の長きにわたり、ご愛読いただき感謝申し上げる。ひき続き、新たな旅人たちによる名著への旅をお楽しみいただければ幸いである。

(曜)


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