名著への旅

第67回『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕(上・下)』

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『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕(上・下)』
 ジョーゼフ・キャンベル 著
 倉木真木・斎藤静代・関根光宏 訳
 早川書房
 2015年12月25日発行初版発行

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 ある人物が師的存在に誘われて別世界へと旅立ち、数々の苦難や強敵に打ち勝ったのちに宝を手にし、その宝でもって元いた世界を救済する。

 こうした英雄の物語は幾多の小説や映画などに見られる。本書は、こうした英雄譚の「元型」を、世界中の神話の研究を通して明らかにしたことで知られている。

 また本書は、個々人の夢の話でもある。キャンベルは「夢は個人に属する神話で、神話は個人を排した夢である」(上・38頁)と述べ、精神分析学にも依拠しながら、夢に現れる象徴と神話との接続を目指す。それゆえ、英雄の物語は、現代を生きるひとりひとりの人生という「冒険」での苦闘や成長の物語ともなる。そのため、個人史を英雄譚的に理解する、ある種のビジネス書的顔を持ち合わせているところが本書の懐の広いところである。

 ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』を書く際に本書を参照したことは有名である。『マトリックス』や『マッドマックス 怒りのデスロード』などにも本書の示す「元型」は当てはまる。映像作品の制作や鑑賞のための参照枠組みを提供してくれる名著である。

(寺)
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