日時 2024年7月6日(土)~8月25日(日)
講師 7月13日天野忠之氏(天理大学教授)、7月27日佐々木徹氏(仙台市博物館学芸員)オンライン講座、8月3日巽善信氏(天理大学参考館副館長)
場所 仙台市博物館ホール(一部、まちなか博物館講座 オンライン講座)
主催 仙台市博物館
始まりは7月8日(月)の博物館友の会行事の広報セミナーです。学芸員の方の説明と展示内覧会に参加しました。天理大学参考館・図書館所蔵の展示品に感心し、マルコポーロの東方見聞録を読んでみることにしました。長澤和俊訳・解説の角川文庫本です。これは全訳本ではなく、適宜訳文を抜粋しながら、旅行記の内容を読み解いていく体裁をとっています。そのため、愛宕松男訳注[完訳]東方見聞録1、2(東洋文庫)も補足的に読みました。
ポーロは17歳の時にヴェネツイアを出発し、42歳で25年間に及ぶ大旅行から帰還します。ヴェネツイアに帰国後、最期を迎えるまでの後日譚も記されています。ジェノバで足かけ5年の牢獄生活中、旅行記が口述筆記されて完成し、ヴェネツイアに再び戻りました。フビライ・ハーンの信頼を得て、使者として回った旅は好奇心を大いに刺激される日々だったことでしょう。
8月3日(土)は巽善信氏による講演「モンゴル帝国とルネサンス-大航海時代のはじまり-」があり、特別展の由来が解説されます。氏はオリエント、西アジア地域考古学を専門とし、今回の展示を企画したそうです。
講演は今回の展示会の趣旨を説明するものともいえます。チンギスハ-ンが開いた、モンゴル帝国はヨーロッパからアジア一帯を広く征服し、国内外に大きな影響を与えました。刺激を受けたヨーロッパではルネサンスをもたらしました。キリスト教支配に疑問を持ち、キリスト教のドグマから離れ、自分の認識で世界を理解しようすることが始まりました。ルネサンスのたまったエネルギーが一氣に外へ、海外にも放出され、大西洋・太平洋へとその波が伝わり、大航海時代を迎え、ヨーロッパの国々、人々が世界を席巻していくことになります。
日本人にはそのことが何故できなかったのか、と問いかけます。持論としながらも、コロンブスなどを例示しながら、「個の強さ」の違いではないかと話します。
7月13日(土)には天野忠之氏による「倭寇・南蛮と戦国日本」、27日(土)には佐々木徹氏による「慶長遣欧使節とは何か」、2つの講演がありました。天野氏の講演では、大航海時代と当時の日本の係わり、特に西日本を中心とした戦国大名たちの海外貿易、信長、秀吉、家康による海外貿易の方針と各大名への対応など海外諸国、中国やアジアとの関係という視点から歴史をみていきます。
家康と政宗は海外貿易の拠点を東日本につくることを画策し、それが慶長遣欧使節の派遣に繋がります。政宗は世界戦略の一環として使節を派遣し、大使に任命された支倉常長(長経)が有名になっていますが、幕府の対外政策が変化していき、使節派遣の目的は果たせなかったと失敗説が定着していることに佐々木氏は異議を唱えます。使節派遣の目的には、①キリスト教布教と貿易-定期航路の開設、②メキシコ伴天連との貿易があり、南蛮貿易が数度行われた実績を考慮すると、必ずしも失敗だったとは言い切れないとします。氏の著書「慶長遣欧使節 吉川弘文館2021年」も読んでみました。氏によれば、政宗の使節派遣の意図を巡って諸説があり、歴史家の間で論争が続いているようです。いずれにしろ、政宗は「個の強さ」を持つ人間の1人だったのでしょう。
視点を変えて、あるいは、事実を掘り起こして見直した歴史の話を聞くことは、門外漢にとっても楽しいものです。博物館の特別展示から刺激を受け、関係の講演会や博物館、図書館に度々通った夏となりました。