名著への旅

第10回『ロウソクの科学』

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 これはロンドンの王立研究所の教授であったファラデーが70歳の年(1861年)、少年少女たちに対し全6回にわたって語られ演じられた公開講演の記録である。記録者はクルックス管を発明した物理学者、ウィリアム=クルックスである。

 電磁誘導の発見、電氣分解の法則、ベンゼンの発見など、科学史に偉大な足跡を残したファラデー。彼の科学的探究心のエッセンスが、この1本のロウソクの燃焼に凝縮されている。他にも実に様々な実験が実演されており、遂には「すべての造化」に対する法則にまで高められていく。

 ロウソクが燃えるという現象が、どれほど多くの驚異と科学的興味に満ちていることか。こういう記録を読むと、科学者とは自然や物質、現象の持つ不思議に、素直な心で驚いていることがよく判り、その姿に思わず知らずありがたさが込みあげてくる。

 三石氏の翻訳も端正な日本語に仕上げられ、この大科学者の人物像を味わうのに一役買って余りあることを付言しておこう。

(曜)
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