『憑依と抵抗 現代モンゴルにおける宗教とナショナリズム』
島村一平 著
株式会社晶文社
2022年3月25日 初版発行
モンゴルと聞いて頭に浮かぶのは、(ステレオタイプとわかっていても)やはり「大草原の遊牧民」である。最近で言えば、人氣ドラマ『VIVANT』を思い出す人もいるかもしれない。
実際には、全人口約330万人中、首都ウランバートルで約160万人が生活しており、遊牧民は全人口のわずか10%にも満たないという。
1990年代始めにソビエト連邦が崩壊し、モンゴルの社会主義も終わりを迎えた。民主化の流れと共に、鉱山開発などによって貧富の差が激化し、それを機に、「最近じゃ、どこの家に行ってもシャーマンがいる」「うちの妹もシャーマンになったよ」という会話が日常的に聞こえてくるほどのシャーマニズムのブームが起きる。
シャーマニズムとは、シャーマン(巫師・祈祷師)を中心とし、シャーマンによってもたらされた『精霊の声』が人々の心と体を癒し、人生への助言を与えてくれる。精霊のお告げは、「先祖霊の声」。親族間での信仰が基盤となっていることもこの国を理解する一つの手立てとなるだろう。また、シャーマンになることがスラム(貧困)から抜け出すチャンスとなることもシャーマンブームが起きた大きな要因だろう。
モンゴルに限らず、どんな信仰が根づいていくかは、その国が抱えている社会問題を浮き彫りにするだろう。信じるものがあるということは尊く、そして恐ろしい。重要なことは、多様な信仰や思想を受け入れ、自分で選択する自由があることかもしれない。
(庄)