参加体験記

東北歴史博物館れきはく講座 東北先史社会の物流・交流

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日時 2024年3月9日(土)13:30~15:00
講師 小野章太郎氏(東北歴史博物館 企画部企画班)
場所 東北歴史博物館3Fホール

 東北歴史博物館の研究者が専門分野の研究成果を解説する講座の1つです。
 今回は考古学で、先史時代(旧石器時代から縄文時代)の人とモノの移動に関する話題です。人の移動に介在してモノも移動するわけで、遺跡等に残っているモノを観察することを通じて当時の社会生活を推測します。16頁に及ぶ詳細な講座資料が配布されました。
 考古学にも多少の関心はありますが、元より詳しい知識は持ち合わせていないので、関連する講演等を聴く都度考えさせられることが多いものです。

 旧石器~縄文時代の頃の話なので、モノといえば石器に用いた岩石が主な対象になります。東北地方を対象として、具体的な石材としては珪質頁岩、黒曜石、ヒスイ、ネオライト、アオトラ石を、さらにアスファルトに関しても調査を行ったそうです。各石材を材料とする石器類の分布と石材の主な産出地を対比しながら、石材の移動、人の移動・交流について考察していきます。
 各石材の産出地と遺跡で発見された石器類が同一の岩石かどうかは現代の科学技術を駆使した検査機器を用いて組成成分分析など行われ、調査が進みます。考古学も現代の科学技術の恩恵を受けながら考証を重ね新たな知見が生まれていきます。
 東北地方の先史時代の石器群は珪質頁岩製が特徴的で、良質なモノは奥羽山脈の西側(日本海側)に分布しています。他方、奥羽山脈の東側でもこの良質の珪質頁岩製が多用されています。このことは奥羽山脈を越えた西側から東側への石材移動が通常のことだったといえます。
 ヒスイはその産地が新潟県西部の糸魚川―青海地域とされています。ヒスイは東北地方でも確認されています。ただし、山形、宮城県地域では緑色石英質岩がヒスイに似ていることから、ヒスイの代わりに使用されていたそうです。ヒスイより比重が軽いので、手に持てば分かるということです。他にネオライトやアオトラ石は耳馴染みではありませんが、石材として利用されていました。
 アスファルトは現代では道路の舗装材料として用いられています。先史時代では接着剤として利用されており、器具類の組み合わせ(弓矢、斧)、土偶や土器の補修用としても使われていたということです。東北地方ではアスファルトは秋田など日本海側で産出するのですが、太平洋側でも使われています。産出地で採取され、その後精製を経て、塊の状態で搬出され、遠隔地からの搬入品として、各地で利用されていました。接着剤として日常的に使用する必要があるため、生活必需品となっていたそうです。
 限られた産油地でアスファルト塊が発見され、接着剤として道具の製作に利用する技術を考案し、さらに東北一帯へどのように伝えられていったのか、興味深いところです。
 モノの移動は人々の移動、交流によるものですが、そのことから人々はどのような生活していたのか、どのような交流があったのか、どこにどのような社会、文化があったのか等を詳細に解明していくことは易しいことではないようです。

 昨年、地底の森ミュージアム主催の考古学講座で森先一貴氏から旧石器時代研究の最近の動向について拝聴したことがあります。考古学も第四紀学との連携や古環境、古氣候等の知見を踏まえながら、人類史という視点から考えることの重要性、考古学が明らかにする長期の歴史が現代の人類が抱える諸課題を考える際のよい参照枠となり、ヒントにもなるだろうという話でした。
 自然科学やICTなど現代の科学技術も活用しながら、考古学分野での新しい知見が増え、先史時代の社会の様子がより解明されていくのでしょうか。今後も考古学に関心をもっていきたいものです。

(仙台市 島田昭一)
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