日時 令和6年2月2日 13:15~15:30
講師 上埜高志氏(東北福祉大教授)
村上恵氏((公財)仙台市健康福祉事業団健康増進センター 運動指導員)
場所 仙台市シルバーセンター交流ホール
主催 (公財) 仙台市健康福祉事業団せんだい豊齢学園
50歳以上を対象としたせんだい豊齢学園の公開講座です。内容は上埜氏の講演と村上氏による運動実技でした。
上埜氏は東北福祉大の教授ですが、精神科医であり、睡眠に関する専門家です。午後の時間帯の講演でしたが、眠らせない講演でした。
冒頭、これから述べる睡眠に関する説明内容は医学的見地から正しいものだが、これらのすべてをすぐに実践するのは難しいので、少しずつ試しながら自分に合う方法を見つけることが大切であると話します。それほど睡眠は個人差が大きいものということです。
睡眠は約1時間半のサイクルでレム睡眠とノンレム睡眠が交互に出現します。年齢によって睡眠の様子も変ります。成人では夜間睡眠、昼間覚醒というパターンですが、老人では入眠が早くなり、昼間の覚醒時間帯でも午前と午後に睡眠の時間が出現します。幼児や乳児と同じようになるのですね。また、睡眠時間も年齢とともに減少し、レム睡眠の比率が減少していきます。
深部体温(身体の中心部の温度)は睡眠と深く関係しています。入眠前から深部体温は低下し、睡眠の後半から覚醒に向けて上昇します。覚醒中は深部体温が高く維持され、睡眠に向け、入眠2時間くらい前から急激に下がっていきます。この落ち込みが大きい程、深い睡眠が増えることになります。
体内時計(=概日リズム)は24時間+10分周期が平均であり、24時間の地球のリズムとは次第にずれていきます。フリーランというのですが、地球のリズムに同調できるのは光があるためです。睡眠ホルモンのメラトニンは、光があると抑制されてしまいます。即ち夜間に光があると眠くなくなります。日本の夜の照明が欧米などの外国と比べると明るすぎると言われています。光、特に青い色は睡眠を阻害します。
そして、睡眠によいこととよくないことが整理できます。いくつか紹介すると、
・就寝2時間前までの軽い運動はよいが、就寝2時間前~直前の強い運動はよくない。
・テレビ、ネット、スマホは日没後2時間くらいまでは理想的だが、23時以降はよくない。
・昼寝は午後2時頃、20分以内はよく、夕方以降はよくない。
・明るさでは、昼間は明るく、就寝時は暗くするのがよく、就寝中の明かりはよくない。
・温度では、入眠前は暖かく、その後は低めの温度がよく、過剰な高温・低温環境はよくない。
厚労省が策定した「健康づくりのための睡眠指針2014-睡眠12箇条-」があります。この指針は現在改訂中ですが、その中に、次のような高齢者に対する条文があります。
「第9条 熟年世代では朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠」
65歳では必要な睡眠時間が約1時間少なくなることが考えられるので、寝床で過ごす時間を適正化することが大切です。そして日中に適度な運動を行うことは昼間の覚醒の度合いを維持向上し、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつけることに役立ち、睡眠を安定させ、熟睡感の向上にもつながると考えられます。運動といっても日常生活動作ぐらいに考え、歩くことが手っ取り早いとのことです。高齢者の運動不足は体温が上がらず、睡眠と覚醒のリズムがとれなくなります。
世界的にみると、日本人の睡眠不足が指摘されています。日本の国民は4人に1人は不眠症で悩んでいるとのことです。必要な睡眠時間が8時間というのは都市伝説であり、7時間前後が標準です。これより睡眠時間が長くても短くても死亡リスクは増加すると言われています。前述の睡眠指針改正案では、成人の睡眠時間の目標値は6時間としています。短いようですが、これは男性の約3割、女性の約4割が6時間未満という現状を踏まえて、実現可能な目標を掲げているのではないかと講師は説明します。
村上講師の運動実技は高齢者でも椅子に座っていても氣楽に出来る運動が基本です。さらに、質の良い睡眠のための漸進的筋弛緩法という身体をリラックス状態に導く「ゆるりら体操」の指導も受けました。実践したいと思います。
断片的には知っているようでも、睡眠について改めて体系的に知る良い機会になりました。睡眠は乳児から高齢者までどの年代でも大切なことには違いありません。上埜氏は日本人には働き方改革とともに眠り方改革も必要だと強調していました。よい睡眠はよい覚醒とのリズミカルな関係が大切のようですが、人それぞれ違っているということも心しておかねばならないようです。