名著への旅

第1回『大地』(一)~(四)

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 この作品は今日一般に「大地」と呼びならわされているが、正確には「大地」・「息子たち」・「分裂せる家」の三部作仕立てである。十九世紀後半から二十世紀に遷り変わる時期の中国。貧農王龍が物語の基である。私には、三部の中では「大地」が最も味わい深い。王龍とは即ち大地である。大地とは即ち再生であり癒しである。日々の糊は元より、人間の思想・信仰は「土」に結ばれ、 「土」に根ざしてこそ確固たる基盤を得る。財を成し愛欲の限りを尽くした末、「土」に還り、「土」に目覚めて発する王龍の叫びは、救いを求める人間の普遍的な祈りの発露である。このいかにも東洋的と言える心性の妙味を、中国在住四十年ばかりの彼女が深く洞察し得たは、驚くほかない。
 
 「大地」は1932年にピューリッツァー賞を、さらに1938年にはノーベル文学賞を受賞している。

(曜)
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