参加体験記

2023年度史料講読講座<「道中記」にみる江戸時代の旅>

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講師:秋山沙織氏(東北歴史博物館)
月日:2023年8月6日(日)、9月3日(日)、10月1日(日)の計3回
場所:東北歴史博物館 1階研修室
主催:東北歴史博物館

 コロナ規制が緩和され、旅行を楽しむ人が増えています。訪日客も増加し観光地は賑わいを取り戻しているようです。本講座は江戸時代の旅の記録、道中記を史料としてお伊勢参りの旅を読み解くものです。講師は秋山沙織氏です。テキストは秋保町史資料編に収録されている「伊勢道中記」の解読文なので、くずし字を読み取る苦労はありません。
 この道中記は旧秋保町(現在は仙台市)内の4村から21名が参加した団体旅行の旅日記です。旅の期間は嘉永6年5月24日~8月9日の74日間に及んでいます。嘉永6年は西暦1853年、ペリー来航の年でもあり、江戸時代も末期の激動の頃になります。目的は「お伊勢参り」なのですが、その道中に、筑波山、千葉の成田山、江戸見物、鎌倉、富士山登山、名古屋、伊勢、奈良、高野山、大阪、船で行く四国の金毘羅参り、京都見物、長野の善光寺、日光等にも寄る大旅行です。伊勢神宮のみならず各地の著名な観光地を巡っています。
 江戸時代の旅は歩くことが基本ですが、道中記には、日々の経路の順に、地名、歩行距離、宿泊地とその宿銭、訪れた神社仏閣、城下町、観光地の状況等について記録されています。テキストはA4判上下2段縦書き文で13ページあります。講師はテキストとともに、スライドで当時の観光地などが描かれた浮世絵を示し、近世の交通路図面を配布して旅のルートを追いながら説明してくれましたのでわかりやすい解説となりました。当時の旅は異なる異文化に触れて交流を積極的に行い、見聞を広めるものだったようです。

 本講座の最終回10月の講義日と前後して東北新幹線を利用する機会があったのですが、手にした車内広報誌には特集「黄門さまのロングトレイル」と題する水戸光圀の領内漫遊の話が掲載されていました。江戸時代の旅、特に旅人の歩き方、歩く距離などについて谷釜尋徳氏(東洋大教授)の解説記事もありました。江戸時代の中期から後期、史上空前ともいえる旅ブームが起きました。当時も旅行マップやガイドブックの類いが多種大量に出版され、多くの人が街道を行き交ったということです。
 仙台から四国の金毘羅までの往復距離は現在の鉄道でみると約2,320km(=1,160*2)にもなります。谷釜氏によれば当時の東北地方の庶民の旅の総歩行距離は2000km以上、1日平均の歩行距離は約34km、1日当たり20~40km、多い日では60~70kmにもなるそうです。本講座の伊勢道中記も谷釜氏の著書に事例として収録されており、一覧表の蘭に総距離2,423km、日平均37.9km、日最長56.5kmと記載されています。東北地方の旅の中では早歩きの行程でしたが、富士山登山や四国金毘羅様へも訪れるなど充実した旅だったようです。江戸後期の旅ブームの背景には、全国に街道が整備され、荷物運搬業の発達や貨幣経済制度の普及などがあったと指摘しています。

 10月11日のNHKのTV番組「歴史探偵」では、江戸の旅ブーム、特にお伊勢参りがテーマになっており、谷釜教授が出演し、解説されていました。その後、谷釜氏の著書を2冊ほど読み、理解を深めたところです。本講座には題名に興味を持ち、参加してみたのですが、タイムリーな話題だったようです。江戸時代の庶民の旅についてその一端を知ることが出来ました。

(仙台市 島田昭一)
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