書名を見て「???」となった人もいるのではないだろうか。「イスラム」と「飲酒」、珍妙な取り合わせの言葉である。本書は数々の紀行文を著してきた高野秀行による、アルコール禁止のはずのイスラム教国で酒を求めて奔走するルポルタージュである。
例えば、空港でこっそりワインを口に含んでみたり、密造酒の噂を聞きつけて駆けつけたり、砂漠のオアシスの森の中
で現地の人たちと酒盛りしたり、イスラム圏での飲酒の難しさと、イスラム圏の飲酒事情がふんだんに込められている。
そもそも「イスラム」とひとことで言っても、その内実は極めて多様である。詩人オマル・ハイヤームは酒の詩を多く
残し、イスラム神秘主義者であるスーフィーにとって酩酊は神との合一の手段となる。「イスラム」は多くの人が抱くイ
メージよりも柔軟であることが、本書からうかがわれる。
ただの酒飲みが周囲を巻き込みながらただひたすらに酒を追い求める話ではあるが、人間と文化と宗教の裏表をのぞき
見ることができる。
(寺)