講 師 中瀬 泰然 氏
主 催 東北大学加齢医学研究所
開催日時 令和5年9月2日(土) 10:30~12:00 オンライン講座
講師は東北大学で加齢医学を専門とする中瀬教授です。本講座はオンラインのみで行われ、老化現象と記憶力低下、認知症、認知症の治療という順で話が進みました。高齢社会では認知症はよくみられる病ということですが、参加者は意外と少なく5名(定員100名)でした。
老化は加齢により着実に進行します。視力、聴力等の五感機能、筋肉量や骨密度の低下、また細胞レベルでも臓器でも機能低下します。脳は40代をピークに加齢とともに理解力、語彙、情報処理力などが低下していきます。ただ、神経のつながり、神経ネットワークは70歳がピークになるといいます。
認知症は正常だった人が認知機能障害になり、自立した日常生活が出来ない状態です。学習と記憶、注意・遂行機能、社会的・認知行動障害、言語、視空間知覚の障害など様々な面で障害が出る中核的症状と周辺症状(妄想、嫉妬、幻覚、暴力行為、不潔行為等)が現われてきます。他の病氣や薬剤の副作用でも似た症状を示すので注意が必要です。
認知症は脳の細胞の働きに関わる病氣です。原因物質の1つにアミロイドベータという蛋白質の作用があります。細胞内のミトコンドリアの機能を低下させ、シナプスの受容体をブロックして認知機能を低下させます。さらに、ミクログリアなどの細胞と炎症反応を起こし、神経細胞を壊します。最近、日本でも認可されたレカネマブは、アミロイドベータの除去を行い、認知能力の低下を小さくする効果があります。他にリン酸タウ蛋白があり、これは細胞の骨格を壊して影響します。
明らかになっている認知症のリスク因子には、教育歴、難聴、頭部衝撃、うつ病、孤独、低活動、高血圧、喫煙、糖尿病、飲酒、肥満などがあります。しかし、これらを合わせてもリスク因子全体の40%程度です。残りの60%の中で、心臓、腸が重要な要素として注目されています。心臓では心房細動、腸では腸内細菌が関係しているそうです。腸内細菌の働きが悪くなると迷走神経が悪くなり、脳に影響し、アルツハイマー症状やパーキンソン病につながります。乳酸菌摂取の効果として77~78歳の実験例では認知機能が改善されたそうです。便秘の人はそうでない人に比べ倍の速さで認知機能が悪くなるという臨床結果もあります。この他にも、身体活動、食事の内容、脳脊髄液と血管の動脈硬化の関係、睡眠の質、脳内神経細胞のネットワークなども認知症に関係があるそうです。このように、生活上の様々なことが認知症に関係しています。
脳の神経ネットワークは70歳がピーク、認知症の病理は発症の10年以上前から進行、腸内細菌・心房細動にも注目、睡眠リズムも影響、健康的な生活スタイルの5項目を留意事項に挙げ、認知症のリスクを下げるためには、生活スタイル、健康管理、精神的・社会的活動が大切であるとまとめていました。
日本人の平均寿命と健康寿命には平均で約10年の差があります。介護保険が必要となった理由の第1位は男性が脳卒中、女性が認知症と異なりますが、全体では認知症が1番です。認知症を予防することが健康寿命を延ばすことにつながりそうです。
年相応の老化や記憶力の低下は実感するものの認知症には至っていないと思っていても発症時には既に10年以上も前から病理は進行しています。和田秀樹医師によれば、85歳を過ぎれば認知症はフツーです(85歳以上で4割、90歳以上では6割)。自分は絶対ならないとも思えません。柳家花緑師匠の高座で聴いた「そ・わ・か(掃除・笑い・感謝)の法則」からもヒントをもらいながら、日々の生活では予防対策の実践に努め、人生100年時代、ゆるやかに認知症化していくように暮らしていくほかはないのでしょう。