参加体験記

22年度市民公開講座東北大学病院における新型コロナウイルス感染症への対応

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講師 石井正氏(東北大学病院 教授)、高山真氏(東北大学院医学研究科 特命教授)、阿南英明氏
日時 2023年1月28日(土)13:00~16:05
場所 東北大学災害科学国際研究所 1階多目的ホール
主催 東北大学・福島大学「コンダクター型災害保健医療人材養成プログラム」

              
 参加申込時点では東北大病院から2名の講演予定でした。当日は阿南英明氏の講演が加わり、全体時間も延びましたが、大変参考になりました。
 一人目の石井教授は東北大学病院での約3年間の感染症対応状況を総括して説明します。当病院は国公立大学病院の中では当初からコロナ対策に取り組んできました。県内に医学部はこれまで東北大しかなく、伝統的にも使命感をもって地域と協働してきた経緯があるからと話します。コロナは災害と同じで、言わば感染災害だと指摘し、インパクトの波が何波も襲ってきたが、その都度PDCAサイクルにより対策を充実させていきました。

 二人目の高山教授はホテル療養者支援、コロナ急性期~後遺症診療の実際の知見に関する説明でした。コロナ感染者の軽度~中等症患者の医療対応から始まります。感染流行が何波にも及び、感染者が増加するに従って、情報管理と医療機能の整備を順次レベルアップしていったそうです。DX化を進めていったというところです。
 コロナ感染者に対する治療薬は次第に増えてきており、点滴だけでなく経口薬も開発されている他、漢方薬(葛根湯+小紫胡湯加桔梗石膏)の効果も認められるそうです。早期に使用するほど重症化を防ぐこともでき、味覚、嗅覚障害の改善も早めになるといいます。この漢方薬の研究成果は東北大からプレスリリースされています(昨年11月28日)。後遺症についても臨床研究されており、東北大病院では後遺症外来窓口を設けています。

 三人目の阿南講師は3年前のダイヤモンドプリンセス号対応を皮切りに、神奈川県のコロナ対策の司令塔の役割を果たし、厚労省委員会の専門家としても活躍されています。講師は藤沢市民病院副院長であり、神奈川県理事で医療危機対策統括官、東京医科歯科大学臨床教授も務められています。専門は救急医療で、災害医療も担当しますが、感染症は専門ではないそうです。
 ダイヤモンドプリンセス号対応では、お鉢が回ってきた県には担当所管部署がなかったので災害対応のDMATがこれに当たりました。感染症には対応しない組織規定だったのですが、現在では感染症も所掌範囲に明記されたそうです。
 DMATの災害対応手法をコロナの感染症対応にも応用しながら、感染症特有の課題にも取り組みました。当時、重症と軽症の2分類だった感染者を軽度や無症状感染者が多いので、中等症を加えて3分類にしました。重症は専門病院、中等症は拠点化、軽症は自宅やホテルでの療養に篩い分けし、医療資源の合理化を図りました。必要な医療資機材の状況や病床の空き情報などの情報管理をシステム化し、広域的な情報基盤を構築しました。
 災害対応では指揮命令系統の一本化が不可欠です。国が保健所を直接指揮する法制度になっており、都道府県と保健所を持つ市が同列となる体制でした。政令市が3つもある神奈川県でも同様ですが、該当市と協議し、指揮命令系統を県に一本化し、省力化とスピードアップを念頭に施策を展開しました。
 情報に関してはIT、デジタル基盤を活用し、保健所のヒアリングの代行、療養者の健康管理一元化などを進め、保健所の負荷を軽減させました。病床の確保では県と各病院が協定を締結し、感染状況のフェーズ毎に増床計画を確定し、その状況も病床管理アプリで可視化し、共有化を図りました。この協定締結方式は感染症法の昨年12月2日の改正により全国で病院と自治体との協議が義務づけられます。
 効率的運用面では、スコア表に基づいて病状等を判定し、宿泊、入院、自宅療養の篩い分けを行い、自宅療養者には地元医師会と連携し、予め定めておいたモニタリング方法で対応したそうです。
 第5波以降の患者急増期はまさに災害時の状況です。通常の災害(例えば地震災害など)では日常医療も被災し活動できないのに対してコロナは違います。被害を低減し、最大の効果を得られるよう全体最適な運営を行い、指揮命令系統の再構築も必要となります。
 ワクチンや治療薬、治療法などが進化していき、コロナと人間の関係も変わってきました。医療負荷の軽減を目指すことになるのですが、高齢者、福祉施設の医療支援が課題として浮き彫りになってきます。「うすい」という表現を用い、日本の医療体制の問題点も明確にします。病床数は他国と比べても遜色はないものの、急性期病床に当たる医師や看護師の数が少ないのです。普段の医療はOKでも危機時には余裕がない体制となります。日本の医師は兼務が多いので、対策を効率よく進めることも必要です。
 コロナ対応を離陸させた以上、着陸させ、復興しなければならないと話を進めます。神奈川県ではコロナ患者の高齢者致死率はインフルエンザ並に下がり、対応方針を転換する観点から、昨年7月6日に感染対策指針を策定しています。
 感染症災害対応にも経時的なグランドデザインが必要だとし、昨年8月22日に厚労省のアドバイザー会議で将来に向けたロードマップの提言をしました。提言にある20数項目を日常に落とし込んでいくことが必要と説き、コロナも感染症法上2類から5類へ段階的に移行することも提言しています。この件については講演前日、岸田首相が5類移行時期を5月8日とすることを発表しており、ホットな話題となりました。感染症法は伝染病予防を行うものですが、公衆衛生倫理により人権保護の立場から人権に対して侵害と強制を最小限に留めることも求められます。5類への移行では、行政の介入がなくなり、普通の病気になります。個人の判断が基本になるというわけです。
 感染症は今後も流行が反復することでしょう。慢性的な医療の逼迫状態を改善するためには、外来診療の在り方、見直しや常時の感染症対策、市民への啓発活動などが必要となると強調します。ITなどテクノロジーを最大限活用し、オンライン診療などを普及させ、外来診療時の人手を減らし、看護師は入院患者、あるいは在宅療養者への訪問看護などに重点をおくべきだとします。

 災害対応としての感染症対策、日本の医療の課題、今後の医療の在り方、IT活用の医療など頷ける内容です。特に感染症流行を災害として捉え、対応策を向上させていくことは喫緊の課題でしょう。今回のコロナ対応では各国との比較からも日本のIT化の遅れが明らかになりました。最も医療が必要な高齢者には不慣れなものが多いようですが、これも不可避な課題です。医療関係者の方々に深く感謝しつつ、今後の感染症対応を注目していきたいと思います。(仙台市 島田昭一)

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