2012年3月から「南相馬ひばりエフエム」でパーソナリティを務めていた、芥川賞作家の柳美里さんは2015 年に南相馬市へ移り住み、地元の人々の声と言葉を届けていました。南相馬市小高区で、原発事故による避難指示が5年ぶりに解除された後、地元の高校生たちが電車を待つ間過ごせる場所として、本屋を開くことを決意し、紆余曲折を経て2018年に自作から命名した本屋「フルハウス」をオープンします。敷地内には劇場も併設されていて、長らく休止していた演劇活動も再開します。
その年、私自身も何度か常磐線を乗り継いで、開店記念トークイベントに参加し、初めて小高の地を踏みました。行き帰りの車窓から見た美しい風景が忘れられません。「フルハウス」の本棚には、柳さんの友人作家達が選書した本が並び、眺めているだけで幸せな氣持ちになりました。と同時に、同じ東北に暮らしながら、あそこまで震災と向き合ってきただろうかと自問してしまいます。
メドレーとは、間にナレーションなどを入れずにいくつかの曲を続けて演奏することと、「はじめに」にあります。このエッセイはまさに、震災後、南相馬市の人々の言葉や想いに耳を澄まし、懸命に言葉を紡ぎ、人々が集う場を作り、表現活動を生み出し続ける一人の女性の数年間の記録であり、奮闘記です。
その後、「フルハウス」はブックカフェとしてリニューアルされ、また『JR上野駅公園口』で全米図書賞(翻訳文学部門)受賞と、柳さんの「メドレー」はこれからも続いていきます。
(庄)