名著への旅

第57回『悪循環の現象学 「行為の意図せざる結果」をめぐって』

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 人に好かれようと社交的に振る舞ったら「八方美人」と言われてしまう。早く寝ようと意識すればするほど目が冴えてしまう。このような、経験はないだろうか。

 意図を持ってなされた行為が、その意図に反する結果を生むことを「行為の意図せざる結果」という。本書はこの概念を中心に、日々のやりとりから社会の病理までを見通し、その悪循環の根本に迫ろうとしている。

 筆者によれば、「行為の意図せざる結果」は近代社会の象徴的な現象である。すなわち、近代は個々が主体的であることを求めるが、それに従うことは能動性の発露でしかない。このような自己矛盾を孕んだ近代への応答方法として、筆者は不器用であることを推奨する。常に失敗を楽しむことは、意図しない結果をも許容するユーモアを確保することになるだろう。

 身近な「社会」と対話する窓口を、ゆっくりと広げてくれる書物である。

(寺)
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