編集部だより

『ドライブ・マイ・カー』から始まる濱口映画への道

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 去る3月28日(日本時間)、ロサンゼルスでアカデミー賞授賞式が開催されました。いろいろ波乱もある授賞式だったようですが、 なんといっても、(『おくりびと』以来)13年ぶりに、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞(外国語映画賞から名称変更)を受賞したことが、 濱口監督の映画を(ある程度)観続けてきた映画ファンのひとりとして、久々に嬉しいニュースでした。今回のアカデミー賞では、国際長編映画賞のみならず、 作品賞・監督賞・脚色賞の候補になったことも画期的なことです。 まさか日本人の映画監督が、スピルバーグやジェーン・カンピオンと肩を並べて候補になるなんて、思い出すだけで泣けてきます(笑)

 カンヌ映画祭での四冠から国際的な映画祭での受賞ラッシュ。カンヌを受賞した時には、「ふむふむ、取りましたね」という感覚でしたが、 アメリカでこんなにも評価されるとは想像していませんでした。3時間近い低予算の字幕映画がよくぞアカデミー賞会員の心に届いたなと驚いています。(濱口監督の作品のなかでは短いほうですが……)

 村上春樹さんの短編小説が原作になっているところも大きな要因だったようですが、 劇中で上演されるチェーホフ原作の戯曲『ワーニャおじさん』の存在も大きかったのではないでしょうか。 (『ワーニャおじさん』を読んでから2回目を観に行こうと思っております。それまで上映してるといいな)

 『ドライブ・マイ・カー』は本当に素晴らしい映画体験をもたらしてくれる作品ですが、
これを機会に、普段映画館で映画を観ることのない方々には、ぜひ濱口監督の他の作品も観てほしいです。 映画には、作品の良し悪しの前に相性のようなものがあると思います。 『ドライブ・マイ・カー』で濱口映画のファンになった方、「みんな絶賛しているけど、私には理解できなかった」という方にもぜひ他の作品も観ていただきたい。

4/8(金)~4/28(木)濱口竜介監督特集上映@フォーラム仙台

 4月8日から4月28日まで濱口竜介監督特集上映がフォーラム仙台で始まります。なんと一挙14作品が上映されます! 私のお氣に入りは『ハッピーアワー』と『親密さ』ですが、一部仙台で撮影された『偶然と想像』もおすすめです。 個人的には、見逃していた東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ 気仙沼』『なみのこえ 新地町』『うたうひと』は絶対観に行きたいと思っています。 (酒井耕監督と共同制作したこの映画のために、お二人は東日本大震災後、しばらく仙台を拠点に活動されていました。)

 そして、今年の作品賞は、『コーダ あいのうた』でした。聴覚に障がいのある家族の中で、ただひとり耳の聞こえる少女が歌の才能に目覚めて、 自分の夢と家族への想いのなかで葛藤するという物語です。(タイトルの「CODA(コーダ)」は、「Children of Deaf Adults=“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”」のこと) 男性のろう者の俳優で初のオスカー受賞者(助演男優賞)となった父親役のトロイ・コッツァーのスピーチは本当に感動的でした。

 新型コロナウィルスのまん延、Black Lives Matter(アメリカで起こった人種差別抗議運動)、そしてウクライナ侵攻と辛く悲しい出来事が続いています。 そんななか、この希望と寛容に満ちた映画がハリウッドに選ばれた理由がなんとなくわかる氣がします。長くなりましたが、機会があれば映画館でお楽しみください。 その際には、ぜひ「まなびのめ」55号の松﨑丈先生(宮城教育大学)のインタビュー【避難の呼びかけは届かなかった】 も併せて読んでいただけると嬉しいです。

「まなびのめ」編集部 庄司 真希

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