映画やドラマなどを見ていると、しばしば物を食べるシーンが出てくる。家族で仲良く食卓を囲んでいると、急に悪者が出てきて、団欒の場が凍りつく。悪者はテーブルをひっくり返し、食べ物が床に撒き散らされる。ああもったいない…。
もしくはこのような場合もある。貧しくも心清らかな青年が、朝、窓際でパンをかじっている。すると小鳥が何羽か飛んできて、窓辺にとまる。青年は食べていたパンを少しちぎって小鳥にあげる。ああなんと優しい…。
本書はこのような食をめぐるシーンの分析を通じて、食べ物描写がいかに登場人物の性格や心情、状況を語る上で重要であるかを論じるものである。著者は「1.善人は、フードをおいしそうに食べる 2.正体不明者は、フードを食べない 3.悪人は、フードを粗末に扱う」という「フード三原則」を掲げ、それらを総じて「フード理論」と名付ける。そして、「フード理論」を通じて作劇や演出の方法を明快に示してくれる。
家で映像作品を楽しむ機会も増えてきたかと思うが、本書は作品をさらに楽しく視聴するための豊かな着目点を、楽しく提供してくれる。
(寺)