編集部レポート

<みんぱくゼミナール> 人はなぜ共に歌うのか?

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<みんぱくゼミナール>
人はなぜ共に歌うのか?―インド北東部ナガの伝統ポリフォニーの事例から
(オンライン開催)

講師:岡田恵美氏(国立民族学博物館人類基礎理論研究部 准教授)
日時:2021年7月17日(土)

 大阪にある国立民族学博物館のオンラインセミナーを受講しました。YouTubeのライブ配信で、簡単に受講できるしくみだと思いました。開催案内メールにレジュメが添付されていたのが嬉しかったです。

 インド北東部ナガランド州に暮らす山岳民族「ナガ」の歌唱文化のお話でした。ナガはモンゴロイド系で、それぞれ独自の言語を持った14の指定トライブに認定された少数民族の総称です(※指定トライブとは、指定カーストと並んで社会的弱者の保護のためのインド独自の政策)。

 ヒンドゥー教徒が大多数を占めるインドですが、ナガランド州民の90%以上がキリスト教徒(最大教派はパブテスト)で、人種的にも宗教的にもマイノリティなのだそうです。各トライブにあるパブテスト教会において、幼いころから各トライブの言語に訳された歌詞でポリフォニー(複数パート混声)の讃美歌を歌う習慣があるために和声を感覚的に理解できるとのこと。

 マイノリティ差別や長年にわたるインド・ビルマからの分離独立闘争の影響、若者の流出といった現代のナガが抱える社会問題の説明もありました。そういった社会問題の解決を目指しナガの音楽文化を生かして音楽振興政策に力を入れた結果、経済的に立ち直るだけでなく、衰退しつつあった民謡のフレーズ・独特の発声法といった「ナガらしさ」が見直され、ポップミュージックと伝統的歌唱法を融合させた若手アーティストの登場をきっかけに、ナガの歌唱文化が再評価されたそうです。

 セミナー後半では指定トライブのひとつ、チャケサン・ナガの「Li」と呼ばれる伝統ポリフォニーの田植え作業中の10人ほどの女性による歌唱動画を視聴しました。Liが発展してきた背景として、讃美歌による和声の感覚的理解や、急斜面の棚田という地形のために近隣の人々で協働する相互扶助システムが不可欠な点が指摘されていました。セミナーでは「かえるのうた」の輪唱が例に挙げられ、まさにそんな感じで最初の人が歌うのを追いかけるように徐々にハーモニーが広がっていました。

 最後に、Liの伝承に関して、生活様式の変化に伴って本来の脈絡が失われて歌だけが切り取られていくというお話がありました。本来の脈絡とは無関係にエンターテイメントや芸術文化として生き残っている祭りや民謡・舞踊は日本にもありますし、それが悪いとも言い切れないと思います。どのように伝承していくか「取捨選択・変化というジレンマとの戦い」という言葉があり、難しい問題だと感じました。

(「まなびのめ」編集部 三上志穂)