編集部だより

芥川賞雑記

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 去る7月14日、第165回芥川賞・直木賞が決定しました。
 ご存じの方も多いと思うので、各賞のなりたちなどは割愛いたしますが、文学ファンとしては、年に2回の、候補作発表から受賞作決定までの期間をお祭りのように楽しみにしています。
 両賞の違いを(かなり)ざっくり書きますと、芥川賞が新人作家による優れた純文学作品に与えられる賞で、直木賞は主にエンターテイメント作品へ与えられる賞と言われています。
 ここ数年、芥川賞の候補作を事前に読んで受賞者を予想したいと思い、毎回チャレンジするのですが、遅読なもので、なかなか事前に全作品を読み終えられた試しがありません。今回も、5作品中、事前に読了していたのは、くどうれいんさんの『氷柱の声』のみ。ちょうど図書館で掲載誌を借りられたので、石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』と高瀬隼子さんの『水たまりで息をする』を併読しているところで受賞作発表の日を迎えました。
 
<候補作>※敬称略、括弧内は掲載号、◎は受賞作
石沢麻依『貝に続く場所にて』(群像6月号)
くどうれいん『氷柱の声』(群像4月号)
高瀬隼子『水たまりで息をする』 (すばる3月号)
千葉雅也『オーバーヒート』 (新潮6月号)
李琴峰『彼岸花が咲く島』 (文学界3月号)

 今回は発表前にすべての作品が単行本化されていましたが、これはかなり珍しいことだそうです。これまでだと、受賞しなかった作品は単行本化されないことも少なくなかったとのこと。
 東日本大震災から十年ということやコロナ禍という社会的な背景が投影された作品も何作かあり、話題になりました。東北出身者が2名いたことも個人的に嬉しかった点です。
 結果は、仙台市出身で現在ドイツの大学で西洋美術史の研究をされている石沢麻依さんがデビュー作で受賞、台湾出身の李琴峰(り ことみ)さんが2回目の候補で受賞ということで、2作品同時受賞となりました。(直木賞も2作品ということで、こちらも久々のことだそうです)

 当日、とある動画配信サイトで受賞者発表と記者会見の模様を視聴しました。この動画配信サイトは視聴者が書き込んだコメントが画面上に流れる仕組みになっているのですが、記者会見の際、李さんや石沢さんの発言に対して、書き込みのなかには心無いものがけっこうあり、残念な氣持ちになりました。

 個人的には、高瀬隼子さんの『水たまりで息をする』がとても興味深かったです。主人公はある日、夫が風呂に入らなくなったことに気づきます。そこから平和だと思っていた二人の日々に変化がおとずれて…という物語です。候補作の掲載誌が図書館から回ってくるまでの間に、高瀬さんの過去作も読みました。東日本大震災もコロナ禍も描かれていませんが、今回の候補作のなかで、一番普遍的なことが描かれているような氣がしました。
 次回の第166回は年内12月に候補作が決定し、来年1月に受賞作が発表になります。それまでに今回の候補作を全作読み終え、できることなら、何が候補になるか各文芸誌に掲載される新人作家の作品に注目していきたいとささやかな(?)野望を抱えております。

「まなびのめ」編集部 庄司 真希

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