研究者インタビュー

仙台・宮城は児童文学の豊かな地

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来年夏こそ「みちのく妖怪ツアー」を

 1999年開館の仙台文学館に、準備室時代から学芸員として勤務しています。学芸員は資料の収集や展示を行う、「博物館法」という法律に定められた専門職です。仙台文学館は仙台市の施設ですが、私は市から指定管理者の指定を受けて管理・運営を行っている、(公財)仙台市市民文化事業団の職員です。

 仙台文学館は児童文学にも力を入れていて、開館の翌年から「こども文学館えほんのひろば」を夏休みに開催し、絵本の原画展やお話会、ワークショップなどをおこなってきました。また、児童文学に関する講座も開講し、保育を学ぶ学生さんから、長年にわたり地域文庫の活動を続けてこられた大先輩まで、児童文学に関心を持つ多くの皆さまにご参加いただきました。

 常設展示では、大正時代に仙台で創刊された童謡専門誌『おてんとさん』や、宮城県出身で『でんしゃにのって』「ワニのバルボンさん」「ももんちゃん」シリーズなどの作品で人氣の絵本作家とよたかずひこさんを取り上げて紹介しています。たくさんの絵本や児童書が閲覧できる「こどもの本の部屋」もあるのですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在は閉室中です。

 新型コロナウイルスの影響は大きく、例年夏休みに開催していた「こども文学館えほんのひろば」も、今年は中止せざるを得ませんでした。宮城県在住の児童文学作家による『みちのく妖怪ツアー』をテーマに様々な企画を準備していたので、本当に残念でなりません。来年夏には、ぜひ実現したいと思います。

 『みちのく妖怪ツアー』(2018、新日本出版社)は、佐々木ひとみさん、野泉マヤさん、堀米薫さんが共通の設定で2話ずつを書いた本です。20人の子どもたちが、座敷わらしなどの東北の妖怪ゆかりの地を辿るツアーに参加し、行く先々で一人また一人と消えていくというお話です。物語は、東北の伝承や食文化にも触れながら、読む者を恐怖へといざなっていきます。この物語に登場する子どもたちは都会暮らしで、少しわがままだったり、ときに日和見主義だったり、家庭に不満があったりするけれど、どこにでもいそうな子どもたちです。読者は、そんな主人公に自己を重ねて、東北の伝統的な暮らしに触れ、不思議な出来事を疑似体験するうちに、自然に対し畏敬の念を抱いたり、他者を思いやる心に氣づいたりして、自分を振り返るきっかけをつかみます。とても怖くて、そして何より面白いのです。昨年は続編、今年は第3作が出て、8月にはTBCラジオで、朗読も放送されました。お三方はそれぞれ仙台市、加美町、角田市にお住まいで、他にも多くの単著があります。

 お三方やとよたさんに限らず、現在、仙台・宮城にゆかりの深い児童文学・絵本作家がたくさん活躍中です。また絵本の読み聞かせなどに取り組む団体の活動は40年以上前から盛んで、仙台文学館の「お話会」にもご協力をいただいています。『おてんとさん』の時代から今に至るまで、子どもたちと児童文学を大切に育んできた地域の伝統を文学館としても伝え、輪を広げていきたいです。

絵本や童謡の歌詞も児童文学

 児童文学について考えるとき、私は「すきとおったほんとうのたべもの」という言葉を思い出します。宮沢賢治は自ら出版した童話集『注文の多い料理店』の序文に、「これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」と書きました。私も児童文学は、子どもたちの成長にとって、たとえ目には見えなくても食事と同じくらい大切なものだと思います。

 児童文学というと、物語を連想される方が多いでしょう。しかし主に子どもたちのために書かれた詩もありますし、絵と共に楽しむ絵本や、愛唱される童謡の歌詞も、もちろん児童文学です。言葉による芸術が文学ですから、受け手が言葉に心を動かされたり、言葉から想像をふくらませたりできれば、主な対象が子どもだったり、絵やメロディーと共にあったりすることは問題ではありません。当館の佐伯一麦館長は「文学は総合芸術であり、音楽や美術、演劇、映画など異なる表現分野との相互の関わりの上に成り立っている」と言っています。視覚的・聴覚的な表現との相乗効果によって、広く受け入れられたり感動が高まったりすることがあっても、やはりそれらの言葉は文学と言えるでしょう。

 私たち大人と違って、子どもたちにとって絵本や児童書で出会う言葉はとても新鮮です。楽しみながらも氣づきがあったり、背中を押してもらえたり、時にはがっかりしながら、自分を見つめ直すことや、ものごとを深く考えることができるようにもなります。大人が「読ませたくない」と思うような本からも何かを学ぶことも、成長してそうした本を卒業することもあるでしょう。大人にできることは自分が良いと思う本を押し付けることではなく、子どもと対等な人間として作品に接し、一緒に楽しんでしまうことだと思います。

 作家の柳田邦男さんは、自分が子どもの時、わが子に読む時、人生の後半に自分の人生を振り返る時と、「人は絵本に人生で三回出会う」とおっしゃっています。主人公以外の登場人物に共感したり、自分や他人が抱く負の感情に氣づいたり、子どもの時とは違った読み方や捉え方もできるようになるのは、大人になってからならではでしょう。『ゲド戦記』の翻訳で知られる児童文学評論家の清水眞砂子さんは、「子どもの文学は人が何を幸福と考えてきたかの百科事典」と語っています。長く愛されてきた児童文学には、「心のゆたかさ」とは何なのかを考えさせる言葉がちりばめられているように思います。また児童文学には、単純でも研ぎ澄まされ、磨き抜かれた言葉が用いられています。だからこそ大人にも氣持ちの深いところまで届くし、情報の洪水に疲れた心に安心感をもたらすのではないでしょうか。

 近年は中高校生を対象にした小説が充実したこともあって、児童文学か大人向けの文学かという区別も薄れつつあるように思います。作家の側も、こうした区分を超えて作品を書いている方も多くいらっしゃいます。当館では2011年秋に角野栄子さんの特別展を開催し、代表作『魔女の宅急便』を取り上げました。この作品は、アニメで知られる少女の成長物語にとどまらず、主人公の30代までを描いていて、幅広い世代に受け入れられています。2018年の「えほんのひろば」で取り上げたたかどのほうこさんは、絵本だけでなく中学生向けの物語、そしてエッセイや翻訳でもご活躍です。またその前年に特別展を開催した上橋菜穂子さんのファンタジー『精霊の守り人』『獣の奏者』は、年齢の別なく世界中で愛されています。

 仙台文学館では2017年、絵本や児童書を紹介する『この本おすすめ』という小冊子を編集・発行しました。「えほんのひろば」でお話会にご協力いただいている皆さんや、私たち職員が執筆したものです。お子さん、お孫さんのための本選びに、そしてご自身があらためて児童文学を楽しんだり勉強なさったりする際に、参考にしていただければと思います。

仙台・宮城・東北ならではの文学館

「仙台・宮城ゆかりのこどもの本」コーナー

 仙台文学館では、昨年常設展をリニューアルしました。東日本大震災について宮城ゆかりの作家たちの言葉・作品を紹介するとともに、仙台市在住の漫画家で、哲学的と評される『ぼのぼの』の作者いがらしみきおさんのコーナーを新設しましたので、ぜひご覧ください。

 また特別展では、全国的に知られた文学者を取り上げていますが、地域性を切り口にした展示手法にも力を入れています。私は2013年に「正岡子規 みちのくの旅」を担当しました。明治期を代表する俳人・歌人である子規は、26歳だった1893年に東北を旅して、俳句入りの紀行文「はて知らずの記」を残しています。特別展ではこの旅に焦点を当てて子規の業績を紹介し、遺品や「はて知らずの記」の草稿を展示しました。

 井上ひさし初代館長は、「仙台は多くの文学者を受け入れて、育て、作品を生み出す力を与えてきた地」と語っていました。この街が育み続ける文学のゆたかさを、仙台文学館ならではの視点で皆さまにお届けできたらと願っています。

(取材=2020年9月4日/仙台文学館2階 情報コーナーにて)

研究者プロフィール

仙台文学館 学芸員
庄司 潤子 さん

《プロフィール》(しょうじ・じゅんこ)1973年宮城県生まれ。宮城学院女子大学 学芸学部卒業。1997年より仙台文学館準備室に勤務し、1999年に開館した仙台文学館学芸員に。2016年より学芸室主任。

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