ふとしたキッカケから、青空文庫で柳田國男の『地名の研究』を読んだことが機縁となり出逢った本である。地形と地名は切っても切れない関係にあるからであろう。「『地形』で解ける」シリーズ3部作の最後である。
著者は、1970年に東北大学大学院(土木工学)を修了し、建設省(当時)に入り河川局長等を歴任し、現在は日本水フォーラム事務局長を務めておられる。
日本の歴史・民族性を「地形」という視点から見直し、専門の知識と経験から展開されるストーリーはまことにユニークで説得力に富み、目が開かされることの連続である。その好個の例を挙げると、第7章で、「治水」の考え方について、江戸時代と明治新政~現代では捉え方が180度違っていることを紹介し、その比較図が掲載されている。また、「谷地」という湿地を表わす地名が今も広く残っているごとく、生命線である稲作と湿地帯との闘いの歴史が第2章で述べられ、「胸まで浸かって」した過酷な田植えの写真が載せられている。それぞれ一見の価値ある資料である。身近なところでは、仙台に下宿されていたこともあってか、宮城県大崎市田尻の「冬みず田んぼ」や伊豆沼・蕪栗沼の話があり、親近感も出て来る。
終章となる「第18章 なぜ日本は『100年後の未来』にも希望があるか」では、人口問題・エネルギー・ロボットについての論考が、「『この時代』に生かされた幸運」に向かって、我々が抱える「不安」と向き合う際の視座を与えてくれる。
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