「時代の音」レクチャーコンサート・シリーズ
第6回公演「ひとつのパイプ~響きあう声とオルガン~」
講 師:波多野 睦美 氏(メゾ・ソプラノ)
ゲスト:今井 奈緒子 氏(オルガン・ポジティフオルガン)
日 時:2011年2月12日(土)16:00-18:00
場 所:東北学院大学 土樋キャンパス礼拝堂
冒頭、このレクチャーコンサートの主導者であり、本日のゲストでもある今井奈緒子氏の挨拶があった。「今日が波多野さんを迎えての最終回になる。このまま何時までも続けていたい」という思いなどが述べられた。
そして、オルガンの解説。人間の声を模して、パイプオルガンは創案されたという。舞台上に用意されたオルガンはポジティフ・オルガンというもので、演奏を求められる会場に持ち運ぶことが出来るオルガン、「置かれるオルガン」という意味だそうである。オルガンの音響をより力強く、変化に富ませるために、全てにおいて大規模の装置を建築物自体に備えたものを大オルガンというそうである。
今日はゲストが演奏するポジティフ・オルガンと大オルガン、そして講師の歌声との共演である。
第一曲「夕べの賛歌」(ヘンリー・パーセル)の冒頭の声が発せられると、思いもかけず目頭が熱くなり、微笑が湧き上がってくる。なんという歌声であろう。一息で波多野睦美の世界が支配する。
美しい一本の筒となり音楽を表現したい。第一回目から繰り返されるテーゼが、パイプオルガンとの競演により、その姿を現す。音楽がそう有りたいと思う音として、私の体の中を通っていってもらいたい。音楽家のシンパシーとして、高橋悠治は、「音楽が一人で立ち上がる。そこに立ち会う(共有している)感覚」と表現したそうである。
「ストップ」の操作により、音色と音質の豊穣な世界を演出する演奏方法のことなどのレクチャーも挟みながら、講師とゲストの一体感は増してゆく。
千変万化の音色を紡ぎだすオルガンと、それに呼応するエーテル(αἰθήρ)の歌声。その攻守の妙味を存分に楽しむように音楽を受け渡しする二人。そこに「立ち会う(共有している)感覚」を味わわせてもらう。
「歌い手(演奏者)と聴衆と会場(環境)が音楽を成立させる」という言葉を残して、講師は退場していった。
(仙台市青葉区・男性 文字翁)