編集部だより

『仮設の映画館』の可能性

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 世界的に見ても、優先しなければならないことが山積みの状況ではありますが、今回も映画の話をすこし。
 
 緊急事態宣言が全国対象となった期間中、仙台市内の映画館も4月18日からひと月ほど、休館になりました。私がよく行く映画館は、いわゆる『ミニシアター』と呼ばれ、ハリウッドの大作映画よりは、どちらかと言えば低予算の映画(でも芸術的に優れた)を多く上映してくれる劇場が主なこともあり、その経営は恒常的に厳しいと聞いています。
 ただでさえ、NetflixやAmazonプライムなどの動画配信サービスに押されて、映画館で映画を見る人口は減少しており、全国的にも老舗の映画館がすこしずつ閉館しています。(仙台市内でも、2018年に櫻井薬局セントラルホールが閉館しました) 
 
 この新型肺炎ウィルス禍が終息した後、多くの映画館が閉館を余儀なくされるのではないかと危惧しているのは、我々映画ファンだけではありません。映画製作に関わっている方々も、やっとの思いで製作した映画を観せる場所がなくなってしまう危機感を募らせています。そんななか、配給会社を兼ねている東京の映画館は、独自に動画配信を始めたところもあったり、ミニシアターを支援するために、署名運動やクラウドファンディングで寄付を募る活動も始まりました。
 
 私が特に注目しているのは、『仮設の映画館』という取り組みです。
 
 立ち上げたのは、ドキュメンタリー作家の想田和弘監督です。
 想田監督のドキュメンタリー作品は、『観察映画』と呼ばれ、縁もゆかりもない川崎市議会議員の補欠選挙に出馬することになった男性の選挙活動を追った『選挙』『選挙2』や、最近ですと、アメリカのミシガン大学のフットボールの試合中のスタジアムでの出来事を色々な角度で記録した『ビッグ・ハウス』など、その作品は海外でも高い評価を得ています。
 
 『仮設の映画館』で、想田監督は本来なら劇場公開される予定だった自身の新作『精神0』を5月2日から期間限定で、動画配信することを決めました。料金は1,800円。(経費を差し引いた)収益は、製作者と上映する予定だった映画館に半分ずつ配分されます。観客が映画館を選ぶことが出来ます。
 
 「映画館で映画を観てほしい」となかなか言えない状況下で、映画館と作り手を支援する苦肉の策だと監督は、サイト上で語っています。この試みに多くの賛同が集まり、『仮設の映画館』は続々と上映作品を増やしています。
 
 映画はなんとしても『映画館』で見たいというのは、個人的にどうしても譲れないこだわりですが、ゴールデンウイーク中、外出を控える時間を活用して、『仮設の映画館』などの動画配信にかなり氣持ちが助けられました。地方ではもともと映画館で上映されない作品を鑑賞できることも魅力のひとつです。
 
 鑑賞作品リストを見ると、氣晴らしになるようなエンターテイメント作品はありませんが、日ごろなかなか知ることのできない社会問題や海外の文化などがテーマの作品も豊富ですので、普段からミニシアターに縁がなかった方々にもぜひ体験してほしいなと思っています。
 
『仮設の映画館』
http://www.temporary-cinema.jp/

「まなびのめ」編集部 庄司 真希
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