近ごろ、イノシシなどの野生動物が都会に現れたとの報道がいくつかあった。それに対して「野生動物を殺さないで!」との声がいくらか上がった。「野生動物の住処を人間が奪ったのだから、かわいそうな動物たちを傷つける筋はあるのか」と。その一方で、都会では野生動物の肉が「ジビエ」として流通し、新たなグルメの潮流となっている。
本書は、海外放浪を繰り返していた大学生がふとしたきっかけで狩猟の世界に飛び込み、猟師になっていく過程を描いたものである。師匠たちとの出会い、大学の友人たちと獲物を囲んでの宴会、獲物をさばくときの工夫、ワナにかかったイノシシと向き合った際の緊張感などが、詳細に語られている。
猟師の営みは、広く自然と対話することに尽きるのかもしれない。季節や天候、地形などに合わせてワナを仕掛け、自ら殺し、その命を余すことなくいただくことは、「動物としての人間」の“生きるための技術”の集大成である。それはまた、自身の周囲の環境のあり方を再考することにも結びつく。
猟師の高齢化が言われる昨今、若い猟師の育成は里山の維持にとって不可欠である。本書は狩猟の辛さと楽しさとを、狩猟に縁遠い人びとにも十二分に伝えてくれる。
(寺)