研究者インタビュー

生徒の自治を育む「部活動学」の確立へ

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「ブラック部活動」という批判を超えて

 昨年(2017年)12月に「部活動学会」を設立しました。呼びかけ人である学習院大学の長沼豊先生が会長、私は副会長です。現在の会員は200名ほどで、大学の教員や、中学や高校で部活動の指導にあたっている先生方、そして先生でない方も多く参加してくださっています。

 部活動は、既にある教育関係の学会でもたびたび取り上げられてきました。しかし、生徒たちにとって学校生活の大きな部分を占めていることや、高校野球などの社会的な関心の高さを考えると、これまで部活動そのものを学術的に研究する場が無かったことの方が不思議かもしれません。その背景には、学校における部活動の位置づけが曖昧だったことがあります。

 日本の小中高の教育は、文部科学省が告示する「学習指導要領」という基準に沿って行われています。これまで、教科ごとの指導内容だけでなく、課外活動についても補足的に明記されていますが、部活動はそこに入ったり外されたりしてきたのです。現在の「指導要領」には記載があります。しかし「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」とあるだけで、学校や顧問を務める教員の関与については、具体的に書かれていません。学校の施設を使い、教員が活動に責任を負っている実態を考えると、大きな問題があります。

 運動部でも文化部でも、部活動は生徒たちに様々な体験と成長の機会を提供してきました。部活動で活躍し、その後の進路が開ける子どもも少なくありません。一方で自主的・自発的とされながら、部に所属することが実質的に強制されている学校もありますし、活動時間の長さやレベルの違いに悩んでいる子どももいます。教員の労働量の多さや休日の少なさ、授業の研究や準備にかける時間へのしわ寄せも大きな課題です。さらには、依然として体罰やいじめなども報告されており、「ブラック部活動」という言葉まで生まれました。

 メリットがデメリットを上回るとして、部活動の現状に肯定的な教員や保護者もいます。しかし、科学的な根拠に基づいて部活動を考え、改善策を講じなければならない時期に来ていることは明らかです。「部活動学会」の活動は、まだ始まったばかりですが、「部活動学」の確立を目指すと共に、生徒にとっても、教員にとっても有意義な提言をしていきたいと考えています。

生徒が自分たちで強くなる部活動

interview40_no01-02 私自身も、部活動やスポーツに関わりの深い人生を送ってきました。と言ってもエリートにはほど遠く、小学校で始めたサッカーは中学の途中でやめています。その後は、一応卓球部に籍を置き、高校では空手部に入りました。県内では上位を争っていましたが、スポーツ推薦で大学に進むことはかなわず、卒業後はプロのキックボクサーを目指しました。しかし半年ほどで挫折して受験勉強に取り組み、体育学部の武道学科に入って再び空手に打ち込みます。

 上下関係に厳しい大学空手部の伝統的な雰囲氣は、嫌いではありませんでした。しかし「高校時代の部活動が一番充実していたな」とも思うようになったのです。高校の顧問は空手の専門家ではなかったため、私たちは専門家がいる近隣の高校に出向き、必要に応じて指導を受けていました。練習を学校でするか、近隣校でするか、大会にどう臨むかなどは、自分たちで決めなければなりません。しかし考えたり話し合ったりすることは楽しく、また自分たちの成長を実感することもできたのです。

 教育に関心を抱いた私は「部活動における生徒の自主性」というテーマで卒業論文を書くことにしました。他学部の教育学(生活指導)の先生にご指導をいただいて論文を仕上げた後、和歌山大学の大学院で授業と部活動の関係について研究します。さらに筑波大学の大学院に進み、「戦後わが国における『教育的運動部活動』論に関する研究」という論文で博士号を取得しました。私はスポーツで挫折も味わいました。しかし球技も格闘技も武道も経験し、様々なスポーツのあり方を見てきたことが、自分の研究テーマに結びついたのです。

 私は「自治」こそが、これからの部活動のキーワードだと考えています。自分がいた高校の空手部が理想的だったとは言いません。しかし単に強くなるだけでなく、自分たちでテーマを考え、課題を見つけて練習を重ね、みんなで話し合いながら工夫して部を運営した経験は、間違いなく社会で生きる力につながっています。

 部活動の主な目標を「大会で勝つ」ことや「進学に有利な成績を上げる」ことではなく、体験的に自治を学ぶことや、他者との関係の作り方を学ぶことに置けば、部活動に参加する全ての生徒にとって大きな意義があるはずです。実は、既に体育の授業では、生徒を小グループに分けて調べさせたりお互いに教え合ったりすることで、全員の技術を向上させようとする実践が行われています。授業よりも時間を自由に使え、興味や意欲を持った生徒が集まる部活動では、このようなチャレンジが、もっと広げられるはずです。

 今、日本の学校教育は大きな転換期にあります。社会や産業構造が変化したことを背景に、記憶力を競ったり正解を当てたりする能力以上に、自分で課題を発見し、他の人と力を合わせて解決に取り組む力を育てることが期待されているのです。部活動における自治の追求は、このような社会的な要請に応える意味もあります。

初めての研究会を宮教大で開催

interview40_no01-03 7年前、私は宮城教育大学に赴任しました。主な担当は、体育科教育です。そもそも教員養成の標準的なカリキュラムでは、部活動を扱いません。しかし中学や高校の先生になると1年目から部活動の顧問を受け持つことが多く、しかも自分が未経験の種目を担当させられたりするのです。これでは先生方が悩むのも当然ですし、「自分も部活でしごかれて強くなったから、同じように指導しよう」と考えても不思議ではありません。

 私はまず、現職教員が対象の「免許状更新講習」で部活動を取り上げてみました。すると「部活動だけでなく学級経営にも有意義な内容でした」といった感想をいただくことができました。2016年度からは大学でも、「運動部活動の教育学」という授業を始めました。講義で学ぶだけでなく、新たにクラブを立ち上げ、運営するイメージをもつことにも時間を割いています。「自治的なクラブ」を学ぶ経験は、部活動に限らず学級経営や学校行事の指導でも必ず生かされるはずです。

 今年3月、スポーツ庁は運動部活動のガイドラインを策定しました。休養日を少なくとも1週間に2日設け、1日当たりの活動時間を2~3時間程度とする内容です。これを受けて宮城県は独自に朝練習を原則禁止とし、文化部も対象に組み込んでガイドラインを策定しました。

 しかし私は、これらが活動日や活動時間だけの指針になっていることが氣になります。1990年代にも国が目安を示したことがありましたが、その時は「もっと練習を」「他校に負けない成績を」という声に押され、有名無実になってしまいました。やはり学校教育における部活動の位置づけや、生徒に身につけさせたい内容を考えるという、本質的な議論が必要です。

 「部活動学会」では、そうした議論の場をつくっていく必要があります。一方で「部活の顧問から解放されたい」「部活動は学校教育から切り離すべき」といった意見もあり、それを排除することもしません。それぞれの問題意識を大切にしながらも、科学的な根拠に基づく実践的な研究を積み重ねていくつもりです。また、部活動研究で得られた知見を、学校教育全体の改革にも生かしていきたいと考えています。

 今年の12月2日には、第1回の研究会を宮城教育大学で開催します。私が実行委員長で、高校における運動部活動と文化部活動との接点を見つけることを、メインテーマにする予定です。運動部と文化部の両方に共通する意義や課題を、実践に基づいて検討するのです。

 部活動への関心が高まっている今は、研究の質を高め、改革に着手する好機でもあるはずです。実際に部活動の指導にあたっておられる方々にも、ぜひ「部活動学会」にご参加いただきたいと願っています。

(取材=2018年8月10日/宮城教育大学 5号館2階 神谷拓研究室にて)

研究者プロフィール

宮城教育大学 教育学部 准教授
専門=体育科教育学・スポーツ教育学・特別活動論
神谷 拓 先生

《プロフィール》(かみや・たく)1975年茨城県生まれ。中京大学体育学部卒業。和歌山大学大学院教育学研究科修了。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。博士(教育学)。岐阜経済大学経営学部で専任講師、准教授を務め、2011年より現職。著書に『対話でつくる教科外の体育 学校の体育・スポーツ活動を学び直す』(学事出版)、『生徒が自分たちで強くなる部活動指導 「体罰」「強制」に頼らない新しい部活づくり』(明治図書)、『運動部活動の教育学入門 歴史とのダイアローグ』(大修館書店)など。

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