『人はなぜ物語を求めるのか』
千野 帽子著
ちくまプリマー新書
2017年3月6日 初版発行
本書は物語論を通じて、人間の思考や理解の方法、さらには人間そのものを探求している。
例えば、自己紹介は自分の来歴を「物語」として語ることであるし、不幸にあった場合には「日頃の行いが悪いから…」と因果付けることで理解・説明しようとする。つまり、人間は出来事同士を自ら選択し、因果付けることで自身を理解・説明する「物語る動物」である。
「物語る動物」としての特性を知ることは、自分の思考のクセを知ることになり、その結果、自縛している自己物語を逃れる道を得ることになる。「私は不幸だ」と嘆いている人は、「私は自分を不幸だと思っているんだ」と自己相対化する端緒を得るだろうし、「そのことは自分にとって不幸なのか?」と客観的な視点につながるだろう。
「物語」の仕組みと付き合い方を知ることは、自分自身や周囲との付き合い方を知ることである。人文学の成果を通じて自分と向き合い、前に進ませてくれる名著である。
(寺)