名著への旅

第40回『それでも三月は、また』

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 あの日、多くの人々が言葉を失った。言葉を生業とする作家たちもまた。このアンソロジーは、詩人・作家17人による、震災後初めての、またはそれに近い作品を集めたものである。

 在仙作家・佐伯一麦氏は「日和山」で、港町に住む親しい友人との震災直後の再会から、最大余震の頃までの1ヶ月ほどの交流を描く。文中の友人の津波体験、避難所での様子などの描写を読み返す中で、当時よく見聞きした同様の話や、もはや忘れかけている震災直後の自分の体験を思い起こす。

 高速道の吾妻PAで味わった大きな揺れ。沿岸部の甚大な被害を伝えるカーラジオ。停電の数日間。活躍した古い石油ストーブ。東北以外の親戚や友人からの支援物資のありがたさ。一方で、自分はそれほどの被害ではなく、沿岸部などの被災者と思いを共にできない居心地の悪さのような氣持ちも。

 「あの子も、口には出さないけれど、人が流されていくのをずいぶん見てしまったはずですから」との台詞に、そういう体験をしてしまった多くの子どもの存在を再認識する。その子たちが筆の力を持ったとき、「震災と文学」は新たな地平を見せるのだろうか。

(前進)

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