研究者インタビュー

いじめを臨床心理学で考える

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人の心に寄り添う臨床心理学

 子どもの自殺が相次ぐなど、いじめが大きな社会問題になっています。「学校はなぜ防げなかったのか」「いじめられる側にも問題があるのでは」「いじめは大人にもあり、完全になくすことはできない」など様々な意見があって、解決の難しさはノーベル賞級です。

 いじめはなぜ起こり、エスカレートするのでしょうか。まず加害者側の多くは「からかっただけ」「ふざけ合い」「遊びのうち」と思っていて、いじめと認識していません。また「相手が先にしたことへのはらいせ」で正当な報復だと思っています。だからいじめが止まらず、最終的に残酷な結果を招くのです。

 次に被害者側ですが、初期段階で「イヤだ、それはいじめだ」とはっきり言えば止まる可能性が高いのに、ほとんどの子どもにはできません。エスカレートするのは「友達間」の場合が多く、我慢してでも友達づきあいを続けたいからです。

 いじめや不登校など、子どもたちが抱える問題は多様化しています。かつては学校が全てに対処していましたが、授業の他に生徒指導や部活動もあって、先生方は極めて多忙です。そのため現在では専門家らが学校に入り、先生方とチームを組んで子どもたちの育成にあたる仕組みが整いつつあります。

 私は心理学の研究者ですが、カウンセリングや心理療法を行う「臨床心理士」でもあります。大学院生の時は、学校や児童相談所で相談業務に携わっていました。1995年に始まったスクールカウンセラー制度によって、現在は県内ほぼ全ての公立中学校に心の問題の専門家が配置されています。小学校や高校へも導入されていて、その多くは私と同じ臨床心理士の有資格者です。

 心理学の研究成果を、実際に悩み、苦しんでいる方々のために役立てようというのが、私の専門である臨床心理学です。そこから生まれたのが臨床心理士で、「治す」だけでなく、「寄り添う」ことや、本人の氣づき・自己回復を支援することを大切にしています。臨床心理士は民間資格ですが、大学院修了や医師免許取得等が受験資格条件で、以前は医療機関が主な活躍の場でした。教育機関の人員が不足しがちなこともあって、昨年9月には「公認心理師」という国家資格が創設されています。

 また私は宮城県内5つの自治体の「いじめ防止対策調査委員会」の委員で、栗原市と女川町では委員長を務めています。いじめ問題に関する組織は自治体だけでなく学校にも設置されていますが、こうした組織に学校外の人材が入ることには、先生方の負担を減らすことに加え、地域全体で学校のあり方に関われるというメリットもあるでしょう。緊急時だけでなく年に1度か2度でも顔を合わせ、それぞれの視点から子どもたちの成長について意見を交わすことは、いじめだけでなく様々な問題を予防することにつながります。

いじめの予防に力を注ぐ

 いじめ問題に関するこうした組織は、2013年に成立した「いじめ防止対策推進法」に基づいて設置されました。この法律には子どもにいじめを禁じたり、保護者に子どもがいじめをしないよう指導したりし、また子どもをいじめから守るよう定めた条文もあります。しかしポイントはいじめを定義したことと、いじめの防止や解決に国・自治体・学校が責任を持つよう定めたことでしょう。第二条には、いじめとは「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」とあります。インターネット上の行為もいじめになるし、加害者側の意図にかかわらず、被害者側が苦痛を感じればいじめだという定義です。

 広く定義されたことで、いじめを見逃さないことの大切さが関係者の間で共有されるようになりました。しかしインターネット上のやりとりは大人には見えにくく、苦痛を感じたという訴えへの対処も容易ではありません。学校や自治体によっていじめの発生件数が大きく違うのは、こうした理由もあるのです。大切なのは「いじめか否か」のラベル付けではなく、トラブルの存在を認め、より良い対応を考えることだと思います。

 私たち大人は、傷ついた被害者の話をよく聞き、心の回復を支援しなければなりません。また起きてしまったトラブルは問題として取り上げ、子どもたちと一緒に解決に取り組むことで、子どもたちの成長の機会となるよう支援する必要があります。

 もちろん事後的な対応だけでなく、予防的な対応にも力を注ぐべきです。加害者側に、いじめを楽しいと感じる氣持ちや、自分を守るためだという氣持ちがあることは否定できません。その意味では本能的とも言え、いじめの発生をゼロにすることは困難でしょう。それでも子どもに、いじめのエスカレートが招く結果の恐ろしさや、初期段階でいじめを拒否する大切さ、インターネットの正しい使い方・自己防衛の仕方を教えることは有意義です。

 私は今年の3月まで仙台市教育委員会の、生徒指導問題等懇談会の委員長を務めていました。その場で「いじめがない、あるいは少ないクラスには、逆に何があるのでしょうか」と現職教員の皆さんに問いかけたところ、「規範が共有されている」「異学年同士の交流が盛ん」など多くの実例が挙がりました。いじめの問題だけに目を奪われず、むしろどのようなクラスを作ればトラブルの発生を抑えられるのか、と考えるべきでしょう。

ほめて自己有用感を育てる

「2015年度BPプロジェクト」より

 心理学では一般に個人の心や性格をテーマにしますが、私はいじめなどのトラブルを、主に「関係」で捉えたいと考えています。小学生や先生方にアンケートを行い、統計処理をした
データに基づいて、トラブルの実態を把握するというのが主な研究手法です。

 本学は他の大学や協力団体と共に、文部科学省による認定を受けた「BPプロジェクト」に取り組んできました。これは学校や教育委員会のいじめ防止対策を支援するもので、本学は「特別支援教育といじめ」というテーマを担当しています。

 たとえばADHD(注意欠如多動性障害)などの発達障害を持つ子どもは、いじめの被害者になりやすいだけでなく「迷惑なことをした」「先に手を出してきた」と思われやすい存在でもあります(図1および図2)。アンケートから浮かび上がってくるこうした実態を踏まえて、教育現場への提案や提言を続けていくつもりです。

 他国の取り組みも参考になります。今関心が高まっているのが、「子どものための哲学」や「探求の対話」という意味の「P4C(ピーフォーシー)」という試みです。ハワイは先進地の一つで、本学がハワイ大学と提携していることから、私も今年8月、現地の小中高で行われている授業を見学する機会を得ました。子どもたちが車座になって、正解が一つではない哲学的な問いについて考えを述べ合い、お互いを否定することなく思考を深めていく過程はたいへん興味深いものでした。この授業を通じて子どもたちは「クラスでは思ったことを言っていいんだ」「自分は否定されないんだ」という安心感を獲得していくのです。

 家庭では、ほめて自己有用感を育てることが大切です。「自分は役に立つ存在だ」という自信があれば、他者をいじめる必要はなく、いじめられても自己否定に陥らずにすみます。現代では子どもが手伝うべき家事はほとんどないかもしれませんが、あえて仕事を作ってでも子どもに頼み、評価したり感謝したりするべきです。また「靴をそろえられるようになった」「開けたドアをちゃんと閉めた」といった小さな成長でも喜び、ほめる余裕が、大人の側にほしいと思います。

 一方で、いじめられている子どもはしばしば、「悲しませたくないから」と親に事実を話そうとしません。良いところを見てほめるだけでなく、トラブルや辛い氣持ちも話せる関係を作るよう心がけてください。

 そして大人自身が学びを楽しむことは、その背中を見ている子どもたちの成長にとってたいへん有意義です。「子どもたちをどうするか」だけでなく、自ら学び、さらには仲間とともに知見を共有したり披露し合ったりする機会を持っていただければと思います。

(取材=2017年8月29日/宮城教育大学3号館4階 久保研究室にて)

研究者プロフィール

宮城教育大学 教育学部 准教授
専門=臨床心理学
久保 順也 先生

《プロフィール》(くぼ・じゅんや)1976年岩手県生まれ。東北大学教育学部卒業。東北大学大学院 教育学研究科 博士課程前期課程修了。後期課程満期退学。宮城教育大学教育学部講師を経て、2010年より現職。修士(教育学)。臨床心理士。宮城県内の自治体で「いじめ防止対策調査委員会」の委員を務め、栗原市・女川町では委員長。著書に『こころに寄り添う災害支援』、『事例で学ぶ 生徒指導・進路指導・教育相談:中学校・高等学校編 改訂版』、『同:小学校編』(いずれも共著)など。

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