名著への旅

第13回『青春を山に賭けて』

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 厳冬のマッキンリーで著者が消息を絶ってから27年の歳月が流れた。

 本書には、アマゾン河6,000キロ単独イカダ下りを間に挟んで、世界初の五大陸最高峰登頂後までのことが語られている。次なる目標である極地へ向かう前までの時期にあたる。五大陸はエベレストを除いて全て単独登頂である。単独のモンブランで一度は死に損なったことさえあるが、著者には単独行にこだわる理由があった。とは言っても、単独による登山や冒険の怖さというものを彼は十二分に自覚していた。

 山に登るのは一人だが、その蔭には多くの人たちの助力もあった。偉業を達成させたのはもちろんこの周囲の支えもあってのことだが、それにも増して、人を引き付ける著者の人間性と類まれな意志の力が大きく作用していたように思う。

 私事に亘るが、著者は大学の先輩である。テレビに映し出された、犬ゾリを引く植村の陽に焼けた丸顔が懐かしく思い出される。

 世界の「ナオミ ウエムラ」。消息を絶った前日の2月12日は彼の43歳の誕生日だった。あなたとはもう少し同じ時代の空氣を吸っていたかった。

(曜)
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