研究者インタビュー

植物の眠りを分子で解く

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 動く植物、眠る植物は古くから人間の好奇心を刺激してきました。文字に残されているものとしては、紀元前400年頃、ギリシャのバーレーン島で、葉を閉じる植物を発見し、これをアレキサンダー大王に報告したものが最古です。

 19世紀のイギリスの博物学者ダーウィンは、『種の起原』を書いて生物進化の理論を唱えたことで有名です。晩年はマメ科や食虫植物など動く植物の研究に熱を入れ、『植物の運動力』という本にまとめました。彼は植物が葉を閉じるのは、夜間の低温から実を守るためではないかと考えましたが、この仮説は今では否定されています。

 有機化学の分野では、葉を開閉させる物質の特定に多くの人々が挑んできました。ドイツの研究者が「葉を閉じさせるホルモンを発見した」と発表したときは「先を越された!」と思いましたが、これは彼の勘違いでした。その物質は強い酸性で、刺激によって葉が閉じたのです。私たちは既に、何らかの中性の物質が葉を開閉させることまではつきとめていたので、すぐに誤りを指摘できました。

 その後、葉を閉じさせる物質と開かせる物質は別にあり、お互いに効果を打ち消し合っていることに氣づき、ついに酵素を特定することができました。こうした研究の結果、マメ科植物を眠らせないと枯れてしまうことや、就眠運動だけでなくハエトリソウのような食虫植物が動く仕組みについても解明が進んだのです。

 もちろん有機化学は、就眠運動を説明する方法の一つに過ぎません。先ほどマメ科の植物は光に関係なく葉を開閉すると言いましたが、太陽光が生物時計に影響していることは明らかで、マメ科植物は人間と同じように時差ボケします。飛行機で東西に大きく移動すると、就眠運動の周期が大きく乱れ、その土地の太陽の動きに合うまで時間がかかるのです。

 また葉が開いたり閉じたりする動きは、葉の付け根部分の細胞内の、水の圧力が変化することで起こることが分かっています。マメ科植物は細胞同士の連係プレーによって次々と葉を閉じますが、この仕組みは「イオンチャネル」という「イオンの通り道」を使って説明できるようになりました。細胞同士は電氣を帯びた原子や分子であるイオンをやり取りすることで情報を伝達し合います。光など外界からの刺激を受けると、その通り道が開いたり閉じたりして、細胞を膨らませたり縮ませたりしているのです。

 化学物質の働き、光による調節、イオンチャネルによる情報伝達。この三重の仕組みが、マメ科植物の就眠運動を生じさせているのです。

植物の不思議の研究はまだこれから

(取材=2017年5月26日/東北大学青葉山キャンパス理学研究科合同C棟7階 有機化学第一教授室にて)

研究者プロフィール

東北大学大学院 理学研究科 教授
専門=有機化学

上田 実 先生

《プロフィール》(うえだ・みのる)1965年愛知県生まれ。甲南大学理学部卒業。名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。慶應義塾大学理工学部にて助手・専任講師・助教授を経て、2004年より現職。

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