研究者インタビュー

カードゲームで学ぶ真の防災力

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自分で考えて動ける子を育てる

 東北大学では大学院教育のいっそうの充実を目指して、様々な取り組みを行っています。従来の専門分野の枠組みにとどまらないリーディング大学院教育プログラムでの、プロジェクトを立ち上げてチームを組織し、成果を上げるまでの体験もその一つです。私がスタッフを務めている「グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」からは、「減災アクションカードゲーム」というユニークな成果物が生まれました。2014年の発表以来、学校教育や防災教育の関係者、そして何よりも、対象である小中学生や外国人留学生に大好評です。

 ゲームの参加人数は6・7人がもっとも盛り上がります。人の行動を表した27枚の「アクションカード」を囲み、「あなたは学校の教室にいます。地震が起きました。建物が大きく揺れています。さあ、どうする?」などの質問に、3秒以内に適切と思うカードを取り、その理由を答えるというゲームです。

 素早くカードを見つけて取るところはカルタに似ていますが、「取ったカード全てが正解になり得る」という点が違います。狙っていたカードを他の人に取られても、自分が取ったカードに描かれた行動の正しさをきちんと説明できれば、参加者の拍手によってポイントが得られるのです。災害時の状況は実に様々で、何が「適切な行動」かは、時間の経過によっても変わります。実はこのゲームは素早さや防災の知識のみを競うのではなく、災害時に自分の判断で現実的な行動を取れるようになるためのトレーニングなのです。

 教室で地震に遭遇したら机の下などに入って身を守る、というのはもちろん正しい知識です。しかし他のカードも、適切な状況判断や優先順位の決定が伴えば適切な行動と言えます。取り遅れてやむを得ず手にしたカードでも、あらためてその行動について考えてみることで、防災・減災のための行動を柔軟に考えたり判断したりする大切さに氣づくことができます。しかもそれを、参加者全員で共有することができるのです。

 カードには絵だけで、文字は書かれていません。小学1年生も外国人留学生も理解できますし、描かれた行動は幅を持った解釈が可能なため、新たな発想が生まれることもあります。私たちは東日本大震災で、先生や責任者の判断・指示を待つだけでなく、自分自身で判断・行動することの大切さを学びました。文部科学省も現在は、児童・生徒自身が自ら考えて防災行動をとれる教育を推進しています。「減災アクションカードゲーム」は、誰もが使える思考促進型防災教育教材として、非常に有効なのです。

意欲を持った大学院生が開発

 このカードゲームを開発したのは5人の大学院生たちです。専門は工学が3名、理学と文学が各1名。専門を超えて力を合わせ、企画から公開までをわずか3カ月間で駆け抜けました。

 防災教育をテーマにしたプロジェクトにメンバーが集まったのは、2014年の4月です。ある院生は当時塾講師として教えていた小中学生たちの不安の声に応え、次の災害時に子どもたちが自ら身を守るにはどうしたらよいかを考え続けていました。また他のある院生は、東日本大震災で沿岸部の実家が巨大津波の被害を受け、災害発生時の地域住民の避難行動について考えていたのです。彼らは高い意欲で、調査や議論に真剣に取り組み始めました。

 アドバイザー教員である私は、自分自身が科学教育や科学広報の現場を歩んできた経験から、院生たちが良いものを作るだろうと確信していました。しかしプロジェクトには予算と期限があります。「ぜひ、このメンバーならではのゴールに到達してほしい」と思いながらも、「成果物を7月の『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』に間に合わせよう!」とハッパをかけました。サイエンス・デイというのは、東北大学を会場に2007年から毎年開催されている科学イベントです。子どもから大人までが科学や技術のプロセスを体験し、楽しめるプログラムが、昨年は110行われています。防災教育教材の発表の場としても、実にうってつけでした。

 「知識を伝えるより、答えが1つではない思考を促すものを」という私のアドバイスを活かして、院生たちは実に良い形に仕上げてくれたと思います。議論は6月いっぱい続きましたが、方向性が決まると作業は早く、イラストを描くのが得意なメンバーなど、それぞれの長所を生かして当日に間に合わせました。

 自分たちで模擬プレーをして試行錯誤を重ね、成果物には自信を持っていました。しかし実際に子どもたちにプレーしてもらうのは、サイエンス・デイの場が初めてです。結果として子どもたちの反応は予想以上で、感想からも意図した通り深く学んでくれたことが分かりました。そして大人も、学校の先生方や防災関係者を中心に高い関心を寄せてくださったのです。

商品化によってさらなる普及を

 私の本来の専門は火山学です。火山や噴火を通して地球が内部の熱を逃がす仕組みを研究する「地球科学」でもあります。

 固体としての地球の表面は十数枚の硬い板で覆われていて、これらの動きによって地震や火山活動が起こるというプレートテクトニクス理論を、子どもの時にNHKテレビで知ってとても興味を持ちました。その後もテレビ番組や本で学び続け、大学では地球科学を専攻します。

 当時に限らず現在も、女子が理系に進むことは周囲に疑問視されがちです。幸い私は大学進学もその後も、家族の理解に恵まれました。とはいえ、卒業後の進路として研究者を意識できていたわけではなく、学芸員か学校の教員が念頭にあり、大学院への進学も、「学芸員もこれからは修士や博士レベルの力が必要になる」と言われ始めていたからに過ぎません。就職活動もしましたが、当時の企業には女性の博士取得者を敬遠する空氣を感じ、「研究職で頑張ろう」という氣持ちを固めました。

 専門である火山やマントル対流の研究は面白く、微量元素を測定して岩石の組成を明らかにする質量分析計にも取り組みました。東北大学では女性研究者の育成支援や、科学教育、科学広報にも携わっています。

 東日本大震災の翌年の5月には、広報スタッフとして地球深部探査船「ちきゅう」に10日間ほど乗船し、震災を引き起こした地震の震源域での調査に同行しました。海底までパイプとドリルを伸ばして掘削調査を行う「ちきゅう」は、この調査で水深約6,900mの海底から約850mを掘削し、地震断層の試料の採取と、温度や圧力の計測に成功しています。南海トラフの海域の分析・研究の結果とあわせて、これまで地震を起こさないと考えられていたプレートの「沈み込み先端部」が、実は地震性高速滑りを起こすことが明らかになりました。巨大津波が発生する可能性のある範囲が大きく広がったことから、国の防災計画等に大きな影響を与えています。

 「減災アクションカードゲーム」のプロジェクトは、メンバーが入れ替わりながら現在も続いています。院生たちが行ったもの、外国人留学生向けのイベント、市民団体や学校が行ったものなどを合わせると、開発した2014年度中には21回ものゲームが行われました。講習会に力を入れ始めた2015年度も、私たちが把握しているものだけで25回です。2015年3月に仙台で開催された「国連防災世界会議」で行ったデモンストレーションは、大きな評判になりました。

 現在、プロジェクトはゲームの普及へと軸足を移しています。広げるためには価格を軽視することはできないと考え、コストを抑える提案も行い、2016年3月には東北大学生協から、税込2,000円でカードが発売されました。今では学校の授業や防災イベントに、数多く取り入れられています。

 もしも皆さんがカードゲームを活用する機会があったら、子どもたちの発言に対して「それは間違っている」と言うのではなく、その考えをよく聞き、より「命を守る」行動について語り合ってください。自分で考えて言ったことを否定されると、災害時にも自分で判断して行動することを躊躇しかねないからです。そして私たち大人自身も、適切な判断と行動ができるよう、これからも災害について学び続けましょう。

(取材=2016年11月18日/東北大学青葉山キャンパス 工学研究科総合研究棟9階 リーディング大学院教員室にて)

研究者プロフィール

東北大学 災害科学国際研究所 講師
専門=火山学・科学広報
久利 美和 先生

(くり・みわ)1969年長崎県生まれ。筑波大学 第一学群自然学類卒業。筑波大大学院 地球科学研究科修了。博士(理学)。防災科学技術研究所、筑波大学ベンチャービジネスラボラトリー、地質調査所にて研究員を務め、2007年より東北大学へ。特定領域研究推進支援センター助手、大学院理学研究科助教を経て、2013年より現職。

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