研究者インタビュー

災害時に活躍する大学生を育てる

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1,200人を避難所に迎えて

 自分や家族が避難所で生活することになるかもしれないとは、東日本大震災の発生まで全く考えていませんでした。避難については、地震が起きたら机の下に入って身を守ろうとか、建物が危険な時は屋外に避難しようといった程度の認識だったのです。しかし2011年3月、1週間にわたって、中学校の体育館で避難生活を送ることになりました。

 長年医師として、臨床検査の研究者として医療に関わってきました。現在大学のクリニックの診療の傍ら、校医でもあります。しかし東日本大震災以前は医師として、災害時にどうやって家族や、住民・学生の生命と健康を守るかという視点に欠けていたことは否めません。この反省に基づいて、広く防災活動に取り組むようになりました。

 東日本大震災に遭遇したのは、東京での会議中でした。会場のビルが大きな揺れに見舞われ、参加者たちは一斉に家族に電話をかけ始めました。しかし電話は通じず、やがてテレビに東北の深刻な被害の様子が映し出されました。急いで東京駅に向かいましたが駅舎は真っ暗で、鉄道は全て止まっていました。コンビニの棚は既に空。事態の深刻さが身に迫ってきました(いわゆる帰宅困難者)。

 翌々日、上越新幹線が再開したのを知って、新潟から仙台を目指すことにしました。新潟駅で乗ったタクシーが何とか山形まで行ってくれることになり、今度は山形駅で仙台まで行ってくれるタクシーを探しました。たまたま「自分も戻りたくて、仙台まで乗ってくれるお客さまを探していた」という仙台から来た運転手さんに出会えました。高速道路は通行止め、48号線も作並で途切れていましたが、さすがは運転手さんです。知らない道を迂回して、ついに仙台に帰ることができました。

 仙台の家族は無事で、避難所になった仙台第二中学校の体育館で落ち合うことができました。当時PTA会長を務めていましたので、避難所の運営に携わることになりましたが、マニュアルはなく、全く勝手が分かりませんでした。1,200人の人が避難してきていて、その食事、水、トイレ、眠る環境などを何とかしなければなりませんでした。先生方や町内会の役員の方々と毎日話し合いを行い、試行錯誤を重ねながらようやく乗り切ることができたのでした。

大学自らが防災士を養成する機関に

 仙台に戻って数日後、ようやく大学に行くことができました。研究室の被害が大きかったのですが、片付けは後回しです。教職員総出の学生の安否確認に加わりました。

 事態が落ち着くに従って、福祉を志す学生が集まる大学だけに、学生たちはボランティア活動に動き出しました。福祉ボランティアを行っていたサークルなどが、いち早く支援活動を始めたのには感心させられました。大学としても取り組みを開始し、避難所を訪ねてニーズを把握した上で、学生ボランティアを募って支援活動を行いました。

 多くの避難所を回りましたが、被害も事情も地域ごとに異なり、避難所によって運営のレベルが全く違うことは否めません。自治体職員、消防、警察、自衛隊、そして医療関係者などが災害時にしなければならないことは、もちろんたくさんありました。震災を経験したことで、できるだけ多くの市民が日頃から防災について学ぶこと、まず自らや家族、職場、地域の人々の命を守ること、そして自分たちで避難所の開設や運営ができるようになる必要があると強く思いました。

 そうしたとき眼に留まったのが、地域の防災リーダーを認定する「防災士」でした。防災士は日頃から防災意識の啓発と地域防災力の向上に取り組み、災害時には公的機関と連携して、避難誘導や救助、被災者のケアや避難所の運営にあたります。2001年に活動を開始した特定非営利活動法人「日本防災士機構」による民間資格で、一昨年には認定を受けた人が10万人を超えました。

 資格を取得しているのは、自治体の防災担当者、自主防災組織の方々、学校の教職員など、災害時に地域の責任者として行動する人だけでなく、企業の防災担当者、医療や福祉の仕事に携わる方々、メディア関係者など様々です。防災士は、研修講座の受講とレポートの提出、資格試験の合格、そして消防署や赤十字が実施する救急救命講習の修了によって認定されます。

 これを本学の学生に取得してもらい、防災意識を高めるとともに、災害時には率先して救護活動や避難所の運営にあたってもらってはどうだろう。大学としても取り組む価値があるのではないだろうか。

 東北福祉大学は震災の翌年、養成研修実施法人に認証されました。東北で初めてで、宮城県内では唯一の研修実施機関です。

 本学の施設で行われる年3回の研修講座には、毎回学生100名以上、一般の方50名ほどが参加しています。市町村の主催で開かれる研修講座の企画運営も担っていて、ほぼ毎週、県内だけでなく隣県、さらには茨城県にまで出かけていくようになりました。学内には「防災士研修室」が常設され、スタッフ4名が勤務しています。

1,600名の学生防災士たち

 2013年、東北福祉大学は防災士に認定された学生を中心に、協議会と「Team Bousaisi(チーム防災士)」を発足させました。これは防災士の有資格者が、日頃から啓発事業などの防災活動に取り組むための組織です。発足の翌年には特定非営利活動法人の認証を得ています。

 学生会員は現在およそ1,600名です。近隣地域の学校や町内会の避難訓練に参加し、消火器やAEDの使い方などの実践的な知識と技術を伝えています。また、NHKラジオ第一の「ゴジだっちゃ!」(平日午後5時から)、毎週木曜日の「週刊防災士」コーナーにレギュラー出演したり、3つのコミュニティFMで「ラジオ Team Bousaisi」(毎月第一水曜午前11:10から)を担当したりするなど、啓蒙活動にも積極的に努めています。さらに、他にもFacebookやTwitterなどSNSでの発信、2015年に仙台で開催された「国連防災世界会議」への参加など、多岐にわたる活動を展開しています。

 協議会には、在校生、卒業生だけでなく、自治体や医療・福祉の現場などで働く社会人の方々も参加しています。協議会が防災士同士を結び、それが地域間のネットワークに発展していくことを願っています。

 これからも、学校は避難所になります。しかし先生方は自ら家族も被災していますし、町内会の役員は東日本大震災の時よりさらに高齢化が進んでいくでしょう。防災士、次世代の若者たちには、大いに活躍してもらいたいと思っています。

 若い世代への期待は大学生に限りません。とくに注目しているのは中学生です。それは、避難所になる自分たちの学校のことをよく知っていますし、力仕事でも頼りになるからです。実際、東日本大震災では多くの避難所で、多くの中学生たちが頑張ってくれました。

 いざというとき、人と人との結びつきこそが力になるのだということを、私たちは震災から学びました。役職者や有資格者だけに任せるのではなく、広く市民が参加することが、人の命を救い、避難所の運営をスムーズにするのです。そのため、町内会などの避難訓練は重要で、訓練当日だけでなく、打ち合せを重ねることが、災害時や避難所運営に大いに役立つことを知っていただきたいと思います。

 防災士の資格取得などを通じて、専門的な知識を身につけること。日頃から防災を意識し、避難訓練に積極的に参加し、いざというときに近所同士で声を掛け合って安否を確認すること。また記録や報道に触れて、東日本大震災について学び続けること。市民一人ひとりのこうした取り組みが、「次」の災害の被害を小さくすることは言うまでもありません。もちろん私自身も東北福祉大学も、防災への取り組みをこれからも継続していきます。

(取材=2016年11月11日/東北福祉大学国見キャンパス 防災士研修室にて)

研究者プロフィール

東北福祉大学 医療経営管理学科 教授
専門=臨床検査医学
舩渡 忠男 先生

(ふなと・ただお)1954年宮城県生まれ。北里大学医学部医学科修了。医学博士。東北大学大学院経済学研究科修士課程修了。経済学修士。医師、研究者として東北大学大学院医学系研究科准教授、京都大学大学院医学系研究科教授を経て、2008年より現職。

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