名著への旅

第36回『古代ギリシャのリアル』

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 なぜ本書を選んだかというと、著者・藤村シシンという人物に魅力を感じたからである。アニメ『聖闘士星矢』好きが高じてギリシャ研究家の道へ、という来歴もさることながら、本書からは「勉強は楽しい!」という氣持ちが溢れ出んばかりにイキイキと語られている。

 浮氣性のゼウスがなぜ最高神として崇拝されるのか? これは原因と結果が逆で、偉大な神の恩恵を受けようと人々が「自分の先祖はゼウスだった!」と主張したため、様々な神話が乱立した。このように、ギリシャ神話は各人・各都市が己に有利な説を語ることができた神話であった。

 他にも、女神ヘラは元々の先住民族が崇める古い主神だったが、ゼウスを主神とする一派に組み込まれてゼウスの妻となった、冥界の王ハデスにエピソードが少ないのは、古代ギリシャ人が「現世利益主義」で死後の世界に無関心だった(もしくは、死後の安寧を願うような人々は神殿を建て神話を世に残す財力がなかった)ため、と語られてる。

 雑然とした語りの中にもしっかりと知識が詰め込まれていており、挟まれる小ネタの数々はまるで、人氣のある教授の面白い講義を聴いているようだ。このような濃厚な語り口からか、筆者のTwitterも話題となっている。

 どのような動機からでも何か興味を持ち、一つを極めること。

 本書からは、「学び」は知識になるだけではなく、その知識がコミュニケーションのツールになり、そこから広がった世界でよりいっそう人生を豊かにできる、という可能性を感じた。

(菅)

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