参加体験記

奈良美智講演会in東北大学 記憶の中のカタチ

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東北大学×青森県立美術館  奈良美智講演会in東北大学
記憶の中のカタチ ―豊かさと貧しさ

講師:奈良 美智 氏(美術家)
日時:2015年11月3日(火・祝)13:00~
場所:東北大学文科系総合講義棟2階・法学部第1講義室

 冒頭、青森県立美術館学芸員の奥脇氏から、東北大学と青森県立美術館とが共同で講演会を行うに至った経緯が語られた。それぞれの歴史にも触れつつ、大学と美術館の協力によって広く東北のイメージを伝えていく、という概要だったと思う。

 講師の奈良美智氏は青森県弘前市出身の美術家。講演会タイトル内にある「記憶の中のカタチ」で示すように、子どもの頃から今までに見聞きした体験が大人になってからのものの見方や作品に影響を与えているという。講演会ポスターに使用した作品は広島市現代美術館からの依頼で描いたもの。何かのために描くことが不得意で普段は断っているが、修学旅行で原爆ドームを見て意識に深く残っている広島なら描けるかもという理由で引き受けたそう。広島に落ちた原子爆弾には「little boy」というニックネームがあり、この作品に描かれている少女の白くなった右目(原爆が落ちて空が白くなったと言われていることから)の中には少年(little boy)が居る。作品タイトルは戦争や動乱による行方不明者を示す「Missing in Action」、副題は「Girl meets Boy」。

 自身の生まれた1960年代~青森県の風景写真や1983~2003年の間にアフガニスタンやサハリンを訪れた際の写真をスライドで紹介しつつ、冗談を交えて写真やその背景にある文化を解説していく、という流れ。わたしも青森県出身だが、世代と地方がちょっと違うので青森県の写真でも見たことがないものが多く、新たに知ることがいっぱいあった。「そこら中」にりんご箱があるのは津軽地方特有ではないだろうか。
 また、アフガニスタンでの、地雷を手作業で掘りに行く軽装のゆかいなおじさんの写真や、肉屋でラードが剥き出しのまま置かれていても空気が乾燥しているからハエが集らない、タリバン崩壊後に女子が勉強できるようになり、学校の生徒数が2倍になったため午前と午後の2部制になった、などの話に驚いた。観光地よりも、きれいに揃えて並べられた靴や舗装されていない道路で遊ぶ子どもたちなどのありふれた景色に惹かれるのも、かつての弘前の景色と似ているところに懐かしさを覚えるためだそう。便利さ、綺麗さ、ものが溢れているかどうかだけが副題にもある「豊かさと貧しさ」の指標ではないということだろう。

 スライドの解説でも参加者からの質問のときにも何度も口にしていた「意図せず描いている」。絵は最終的にどうなるかは決めておらず、論理立てずに無意識でエスキースもせずに直接キャンバスに描く。この手法が色の持つ深みや絵の表情を豊かにすると考えている、と(その時は無意識だから何も考えてないけど)後から思うらしい。体験から受けた影響は表面的には分からないところに生かされている。気持ちで参考にし、色や形の要素として現れることもあるという。奈良氏の頭の中にはあらゆる思いや考えやイメージがめぐっていて、それがどんなタイミングでどんなカタチとしてどのようにアウトプットされるのか自分でも分からないままに描いている、ということなのだろうと解釈した。

 この講演会は半数が学生枠であり、学生から「学生」に関する質問があった。それに対して、学生は責任を持たずにいろんなことに挑戦できる、可能性を試せる。キャリアを積めば積むほど責任が生まれ、無計画に「一度やってみたいだけ」は許されない、として、学生のうちに挑戦することを示唆していた。
 今回の講演会を足掛かりとして、来年の夏には青森県で、それ以降も継続的に東北大学と青森県立美術館とのコラボレーション企画が開催される予定らしいので今後も楽しみだ。

(若林区 あおもり犬)
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