研究者インタビュー

シェイクスピアをラーメンのように

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 私がシェイクスピアに出会ったのは、仙台にあった映画館の「名画座」でした。高校の時オリヴィア・ハッセー主演の『ロミオとジュリエット』に魅了されたのです。東京の大学に進んで英語劇部に入った私は、ワイルドの小説を脚本にしました。これが高く評価されたことが、私のその後を決めたのです。

 英国に留学して多くの舞台に触れるうちに、私は役者たちの英語が一通りではないことに氣づきました。階級社会である英国では、言葉が階級を表します。役者たちは役柄に合わせた英語を、見事に使い分けていたのです。さらには首都ロンドンがあるイングランド以外の、各地の訛(なま)りも効果的に使われていました。もちろんシェイクスピア劇でも。

 英国の舞台で方言が話されるようになったのはビートルズの影響です。彼らが歌ったり話したりしたのは、上流階級の英語でもロンドン言葉に基づく国営放送BBCの英語でもない、地方都市リバプールの英語でした。若者を中心に「自分たちの言葉」を見直す動きが広まり、それが舞台にも及んだのです。

 「英国の芝居をそのまま持って来るのではなく、日本の観客に合わせて上演しよう」と私に決意させたのはラーメンです。私はラーメンが大好きで、食べ歩くだけではすまず、自分で作って味を究めようとしていました。英国行きの際は、具材から調理用具、果ては丼までを別便で送ったほどです。

 ところが英国人に自慢のラーメンを振る舞うと、「スープが熱い」と食べようとさえしません。彼らが「ロンドンにはうまいラーメン屋がある」と言うので行くと、スープがぬるくて全くおいしくありません。しかし私がいくら「日本の本当のラーメン」を誇っても、英国人には見向きもされないのです。

 ラーメンとシェイクスピア劇はもちろん違います。400年後の今も世界中で演じられ、演劇の世界では絶対に無視できない存在であり続ける彼は、確かに文豪でしょう。しかし実際に脚本を読み、劇場での観客の反応を見れば、その芝居は難しくも堅苦しくもなく、ざっくばらんでひたすら面白いのです。こうして私は、日本の観客が喜んで観てくださる、ラーメンのようなシェイクスピア劇を志しました。

劇を上演するために研究者になった

(取材2016年8月4日/オジーノカリーヤにて)

研究者プロフィール

東北学院大学 教養学部教授
専門=英文学・比較演劇

下館 和巳 先生

(しもだて・かずみ)1955年宮城県生まれ。国際基督教大学教養学部在学中に英国エクセター大学に留学し、1979年に卒業。同大学院博士後期課程比較文化研究科中退。1985年より東北学院大学に勤務し、教養部助手、講師、教養学部助教授を経て、1997年より現職。1992年、2002年に英国ケンブリッジ大学客員研究員。2002年に英国ロンドン・グローブ座ダイレクティング・フェロー。劇団「シェイクスピア・カンパニー」主宰・脚本・演出。著書に『東北のジュリエット~シェイクスピアの名せりふ』『東北シェイクスピア脚本集(全5巻)』など。

      

  

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