研究者インタビュー

コンピュータシミュレーションで「常識」の誤りを打ち破る

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市民に伝えたい本当に正しい科学的知識

 実は高校時代、いちばん興味を持っていたのは天文学でした。一方で「この宇宙の根源、原理、成り立ちを知りたい」という氣持ちも強く、大学は理学部を選びました。私が2歳になる年に湯川秀樹先生が日本人初のノーベル賞を物理学で受賞されたり、小学生のときに「鉄腕アトム」が雑誌に連載されたりして、原子核理論が注目を集め、科学全体の中でも輝いていた時代だったことも影響していたのでしょう。

 その後、日本への導入期にコンピュータを研究し、今はナノ科学を主なフィールドにしています。巡り合わせもあったのですが、妻からは「あなたはいつも陽のあたる研究ばかりしているわね」と言われます(笑)。

 私は自分の専門領域に限らず、広く「科学」について考え、またその成果を市民の皆さんにも届けたいという強い希望を持っています。2003年には「科学協力学際センター」というNPO法人を設立し、代表理事になりました。分野を超えた学際的な研究を推進し、そこから新たな産業を創り出す一方で、最先端の研究成果に市民が楽しみながら触れられる雑誌「テクノクロップス(科学の種)」を発行するなどの活動を行っています。

 市民の皆さんに直接お話させていただく時は、身近で意外な事実から始めることで、興味を持っていただけるよう工夫しています。たとえば月は、地球からの重力に比べて2倍も大きい重力を太陽から受けていることをご存じでしょうか。たしかに木星のように太陽から遠い惑星の衛星は、木星の影響下にあると言えます。しかし太陽に近い地球と月は、重力的に見ればどちらも太陽の強い影響下にあるため、こうした「重力圏」という見方からすれば、月は地球とともに太陽の周りを回る「もう一つの惑星」であると考えるべきなのです。

 もう一つ、虹の色の数はいくつでしょう? 今の日本人はヨーロッパの影響を受けて7色だと思っていますが、実は虹の色の数は国や地域によって変わります。色を数える人間の側の思い込みによって、色の数が違ってしまうのです。日本では、古くは虹は5色でした。それどころか、「明るい色と暗い色の2色」と数える民族さえ存在します。

 先ほどの「本当は鉄は錆びない」もそうですが、私たちが長く常識だと思っていたことが、実は誤っていたという例は思いがけず多いものです。これからも様々な機会を捉えて、科学の発展によって明らかになったことを、市民の皆さん、特に子どもたちに伝えていきたいと思います。皆さんもぜひ「常識」にとらわれず、興味関心を広く持って学び続けていただきたいと願っています。

(取材=2009年11月26日/東北大学・金属材料研究所二号館川添研究室にて)

研究者プロフィール

東北大学金属材料研究所計算材料学研究部門教授 
計算材料学

川添 良幸 先生

(かわぞえ・よしゆき)1947年宮城県生まれ。東北大学理学部卒業。東北大学大学院博士課程修了。理学博士。東北大学教養部助手、情報処理教育センター助教授を経て、1990年より現職。他にナノ学会会長、中国上海復旦大学顧問教授など。専攻は計算材料学。

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