研究者インタビュー

名探偵のように物質の正体に迫る楽しみ

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漁師さんに学びながら研究を進める

 こうした研究は普通何人かのチームを組んで取り組みます。しかし石巻専修大学で分析化学の研究者は私だけなので、ずっと一人で研究を続けてきました。ただ同僚に、何人か水産専門の研究者がいたのは幸いでした。最初は海に一緒に連れて行っていただき、彼らにいろいろと教わることから始めました。やがて漁師さんから直接お話をうかがうようになり、貴重な情報をいただきながら研究を進めてきました。海では、漁師さんが私の先生です。

 一人で研究してきたことで、時間がかかるというマイナスはありました。一方、自分自身の手で調べなければ氣づけなかったという経験も多くしてきたので、その点はプラスだったと思っています。

 日本は南北に長い国で、実に多様な海洋生物が棲息しています。また日本人は、たくさんの海産物を食べます。食用にしている生物だけでも数多くの種類があり、調べるべき成分も、金属元素に限ってもたくさんあります。しかし基本的なデータを取っておけば、何かのときにはそれを「正常値」として比較の対象にすることができます。こうしたスタンダードなデータベースを作りたいというのが私の願いです。このような地味な研究はヨーロッパでは盛んですが、日本ではあまり関心を持たれることがないと感じています。

 一般の市民の方が報道で元素名に触れるのは、何か事件があった時が多いのではないでしょうか。しかし元素名と「毒性」「安全性」を単純に結びつけてしまっては、正しい理解から遠ざかってしまいます。含まれる元素が同じでも、毒性の強い一酸化炭素と、安全な二酸化炭素があるように、化合物によって性質は全く違います。同じ元素であっても、他と結合しやすい不安定な状態でだけ毒性を持ち、安定した状態では安全なことが多いのです。報道される内容をしっかりと理解した上で生活に役立てるのは良いことですが、そうでないと不確かな情報に振り回されてしまう危険があります。

 生物や地学に比べ、物理や化学は一見とっつきにくそうですが、積み重ねで必ず理解できるようになります。また、手強いだけに征服したときの喜びも大きいはずです。もし興味を持たれたら、分かりやすさだけを求めず、ぜひ基本から学び直されることをお勧めしたいと思います。

 これから研究したいことはいろいろありますが、象牙のトレーサビリティはその一つです。動物の保護を目指して締結されたワシントン条約は、特定の資源について貿易を制限しています。象牙から地域、国を特定することは難しいのですが、ぜひ新たな手法を開発したいという希望を持っています。

(取材=2009年11月12日/石巻専修大学・1号館福島研究室にて)

研究者プロフィール

石巻専修大学理工学部基礎理学科教授 
分析化学

福島 美智子 先生

(ふくしま・みちこ)宮城県生まれ。東北大学理学部卒業。東北大学大学院理学研究科修了。理学博士。神奈川県で高校教諭(理科)を務めた後、石巻専修大学にて助手、講師、助教授を経て、2002年より現職。専攻は分析化学。

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