研究者インタビュー

杜の都の温暖化は、東京の1.5倍の速さで進んでいます

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建築学者が地球環境のことを考える理由

 私は建築学の中の、建築物を取り巻く環境と、そのデザインについての研究をしています。建物自体をデザインしたり都市の景観をデザインしたりするのと違って、「環境をデザインする」というのは、一般の方にはちょっと分かりにくいかもしれませんね。私も大学に入るまでは、建築というのは建物そのものを造ることだと思っていました。ところが勉強するうちに、「環境工学」という分野に興味を持ち始めたのです。建物の中で快適に暮らしたり、働いたりするための環境を整えるための研究で、20世紀の半ばにこの言葉が生まれました。環境調整を行う装置として電氣、空調、給排水等の建築設備を研究対象とする「設備工学」も含まれています。建物の形を設計したり、それを実現するための構造を考えたりすることに比べると地味に思われるかもしれませんが、建物を使う人間を主体に考えれば、非常に大切な分野だということがお分かりいただけると思います。

 私が大学で学んだ頃、それまで主に建築環境を研究対象としてきた環境工学の中に「都市環境」という研究分野が新しく生まれてきました。実は建物の空調は、中を冷やす時には外、つまり都市や地球を温めています。これからは建物の中だけでなく、建物の外の環境のことを考えなければならない、という思いから「都市環境」という新たな学問を提唱し、日本に定着させたのは、私の恩師である尾島俊雄先生です。先生は、都市が異常に暑くなる「ヒートアイランド現象」や「地球温暖化」といった環境問題に、建築学の立場から挑まれた先駆けでした。

 冷暖房は、集約した設備を用いて、個々の部屋よりも建物全体、個々の建物よりも地域全体で行う方が効率的です。負荷、つまり環境へのマイナスの影響を減らすだけでなく、省エネルギーになることからランニング・コストを削減することもできます。尾島先生は1970年の大阪万博で、この「地域冷暖房」を日本で初めて設計しました。当時の日本は高度成長期です。3年後の石油危機でようやく「エネルギーの節約」という発想が広まりますが、私が大学で学んだ1970年代後半でも、「都市環境は10年、20年先の学問領域」とまだ言われたものです。

 今では大規模な建築物を建てる際は、環境への負荷を予測するだけでなく、建物が寿命を迎えて取り壊す際の廃棄物の処理方法までを考えてプロジェクトをスタートさせることが常識になりつつあります。建設時のイニシャル・コストに加えてランニング・コストが重視されるようになり、修繕や建て替え、設備の更新が大きな課題になっている現代において、こうした「都市環境」や「地球環境」への影響を研究する分野は、ますます重要な役割を果たすはずです。

建物のエネルギー消費量を減らすには

 「デザイン」には本来「計画する」という意味もあり、都市にはデザインが不可欠です。どこにどんな建物を建てるか、その外観をどうするか、ということも大切ですが、より快適で活氣のある街を作るためには、大きく環境全体に目を向ける必要があります。

 例えば都市の暑さの問題を考えてみましょう。氣象学でも都市の数ヶ所で氣温や湿度を計測しますが、「都市環境」では観測地点を250mとか500mおきに設けます。「ヒートアイランド現象」が単なる感覚の問題ではなく実際に起きていること、コンクリートやガラスといった乾いた材料で地面や水面を塞いだ地域、高い建物が密集して風が通りにくい地域ではより暑さが厳しいことを、1970から1980年代に明らかにしました。

 この「ヒートアイランド現象」はヨーロッパの諸都市でも観測されていましたが、高緯度で冬の寒さが厳しい街が多いことから、大きな問題とは考えられていませんでした。しかし東京をはじめとする日本の都市では事情が違い、夏の蒸し暑さがこれ以上厳しくなったら大問題です。そこで地面や水面を甦らせたり、ビルを建てる時は周囲に空き地を作ったりなどの対策をとり始めたわけです。しかし統計によれば、仙台の都市温暖化は東京のおよそ1.5倍の速さで進行中です。建物の中は快適かもしれませんが、外の環境は悪化し続けているのです。

 都市全体では、中心部に公園や緑地を増やしたり、建物の過密が起こらないよう規制したりするなどして対処することになります。一方で個々の建物、特に人が多く集まる規模の大きな建物については、そのエネルギー消費量を測定して比較・評価し、環境負荷を減らすよう努めなければなりません。

 建物のエネルギー消費量は、MJ/㎡(メガジュール毎平方メートル)という単位を使って比較します。私たち「東北都市環境研究グループ」が2000年頃に実施した調査結果の中から、一部を紹介しましょう。東北6県の県庁所在地にある143の事務所の、年間エネルギー消費量の平均値は2,000MJ/㎡弱です。これに対して自治体の庁舎は1,000から1,500MJ/㎡の間で、省エネに率先して取り組んでいることが分かります。一方、スーパーでは4,000MJ/㎡弱、百貨店では3,000MJ/㎡強で、店舗施設が多くのエネルギーを使っていることが分かります。

 建物の省エネルギーのための方策はいくつかあって、冷暖房の設定温度に氣を配ることはその基本です。冷暖房の効率を大きく上げるためには、たとえば窓ガラスを2枚以上の複層にするなどの断熱化が非常に有効ですが、実施しているのは、まだ調査対象の2割以下でした。

「やめるデザイン」「拾うデザイン」で温暖化を防止する

 私自身は主に省エネルギーシステムについて研究しています。今でも比較的容易に導入できるものとしては、LEDに代表される高効率照明への取り替えや、照明自動点滅方式の採用があります。また規模の大きな病院やホテルなどの施設では、自家発電を行って、その際に出る熱を暖房や給湯に用いる「コージェネレーション」システム等が考えられます。

 私が「未利用エネルギー」として注目しているのは、下水の熱です。あまり知られていませんが、下水の温度は年間を通してほぼ20℃前後で安定しています。家庭でも、台所や浴室で熱した水をたくさん下水管に流していますよね。これがたいへん有望な熱源で、個々の家庭で下水熱を利用するのは残念ながら困難ですが、集めれば大きな熱エネルギーが得られるのです。

 仙台港の近くにある「仙台市南蒲生浄化センター」は東北最大規模で、仙台で排出される下水のおよそ80%が集められます。処理した後は太平洋に流していますが、これを熱源として、周辺の大規模な諸施設にエネルギーを供給すれば、仙台は省エネルギーの先進都市となるためのステップになるはずです。

 私は杜の都というキャッチフレーズを素晴らしいと思う一方で、仙台にはまだまだ緑がたりないと考えています。私が仙台に住み始めてからの18年間にも、仙台の都市温暖化は急速に進んでいます。これは日本ばかりかアジア諸都市共通の問題となっていることから、昨年の11月には「アジアにおける持続可能な都市環境デザイン」をテーマに仙台で国際会議が開催され、私は大会実行委員長を務めました。オープニングには市民公開シンポジウムも行い、仙台市長にもご参加いただきました。

 「省エネルギー」とか「持続可能な」という言葉だけを聞くと、「我慢しなければ」など後ろ向きなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし涼しく爽やかな風が中心部を吹き抜ける都市を作ったり、化石エネルギーの消費を抑えたりしながら快適に過ごせる屋内空間を実現することは、決して不可能なことではないのです。

 そのためには、どんな建物を建てるかだけでなく「建物を建てない」という選択肢を考えることや、太陽光、風力に代表される、化石エネルギー以外の多くの「未利用エネルギー」を活用することも大切です。これらを私は「やめるデザイン」「拾うデザイン」と呼んでいます。

 市街地を流れる広瀬川の存在をもっと活かすことや、屋上・壁面の緑化を進めることも、仙台を名実共に「杜の都」にすることにつながるでしょう。これはもちろん、行政や企業だけでなく、私たち市民の選択や暮らし方の問題でもあります。環境問題に興味を持っていただき、こうした「都市環境」や「設備工学」についても学んでいただけたらうれしいですし、大学で専攻する若者も、もっと増えてくれるようにと願っています。

(取材=2010年11月11日/東北文化学園大学1号館3階・須藤研究室にて)

研究者プロフィール

東北文化学園大学 科学技術学部/大学院健康社会システム研究科 教授
専攻 都市環境/設備工学
須藤 諭 先生

(すどう・さとし)1958年東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業。早稲田大学大学院理工学研究科 博士後期課程 単位取得満期退学。工学博士。東北科学技術短期大学助教授、東北文化学園大学助教授を経て、2004年より現職。

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